実践編  リアルな暗闇を作る (2026.1 新規)

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略語は以下のとおりです。
C4d L……Cinema 4D Lite AE……After Effects Ai……Adobe illustrator Ps……Photoshop
OM……オブジェクトマネージャ


 暗闇を恐れるのは人間が持って生まれたものでして、闇の奥に広がる不気味な空間を目前にした途端、何もないのに勝手に想像して、恐怖に堕ちるくせに、やけに引き込まれるのも、ごく自然なことです。それを逆手にとって生まれたのが恐怖映画などで使われる演出効果ですね。

 子供時代の夏休み……。
 かつての学校には宿直制度があり、夜の校舎は特別な遊び場でした。先生も迷惑がるどころか喜んで向かい入れてくれて、すぐに始まるのが学校探検です。

 昼間、あんなに騒がしかった教室や廊下がしんと静まり返り、まぶしいほどに光っていた室内は不気味な闇の中に消えていました。その怖さ。いまだに脳裏に焼き付いています。生徒が行きかう賑やかだった廊下も、いまは人っ子一人いません。そこへ自分たちの出す足音が響き渡り、それ以上の人数が一緒に歩いているような錯覚とともに現れるのは、曲がった先が漆黒の空間で消えている "黒い世界" 。そんな景色を C4D Lで作ってみましよう。



 ここは自分の思い出も含めて、舞台はやっぱり "学校" でしょう。まあ、夜の病院というのもありですが、学校に思い出の無い人はいないと思いますので、学校にしました。

 比較のために C4D Lで作った昼間の学校がこちら。

校舎の最も奥から正面を見た景色です。右から折れてきた廊下がズドンと奥まで続き、突き当りを左に折れる構造をしています。廊下の右側に教室があって、その向こうに職員室、さらに進んで下駄箱のある玄関、教室へと続き、突き当りにも教室がこちらを向いて左へと広がっています。

 校舎そのものの作り方は、これまでやってきた基礎的なことの繰り返しですので、ここでは詳細な手順は省略しますが、大切なポイントを解説します。
 まず実物の写真を参考に、使用されているパーツを注意深く観察することが重要です。その上で、正しい比率を意識してパーツを作っていきます。
 単純な柱や縁縁(ふち)、桟(さん)、フロアーなどはメッシュオブジェクトにそれらしい色と材質の違いによる "反射" を組み合わせたマテリアルを貼っていきます。少し複雑な形をしたものはスプラインパスから作って、それを【ジェネレーター】の【押し出し】や【ブール】を使った型抜きを施して立体化しています。そうやって作成した数多くのパーツが組み立てられて校舎ができ上っています。




 さて、その校舎が夜になるとこのとおり……。

職員室から漏れる明かりが生々しいです。手前の右から折れてきた廊下の壁にぼんやり光る掲示板や、もっとも奥、昼間見たときは突き当りだとはっきりと見えていたのが、闇の中に消えているみたいで、こちらに向いた消火栓の赤いランプが、よけいに怖さを強めています。

 夜の景色のほうがリアリティがあふれているのは、周りが暗くなった分、光の効果が強く出ているからではないでしょうか。廊下に反射する職員室の灯りや、消火栓の文字や赤いランプの光もくっきりと映り込んでいます。わずかなハイライトや床への反射が、空間の広がり(距離感)を脳に伝え、それ以外は暗くてよく見えない。つまり粗が見えないので、よけいにリアルに見えるというのが真相ではないでしょうか。




 ではこの暗さはどのように作っているのか種明かしといきましよう。

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下駄箱から職員室を見た景色です

学校内ではライトオブジェクトを 7つ使っていますが、職員室にある 2つのライト以外は【強度】を『14%~35%』と、かなり暗くしてあります。また環境用のライト以外はすべて【詳細】タブにある【減衰】を『2乗に反比例(物理的に正確)』にして、要所要所に設置してあります。
『2乗に反比例(物理的に正確)』にすることで、光源から離れると急激に暗くなるため、光を置くことで、逆に深い闇を際立たせることができます。そして最も明るい職員室には 2つのライトを使って【強度】はどちらも『105%』と、明と暗の差をはっきりとさせることでメリハリの強い "生きた光り" として見せています。



【たくさんのライトを使う理由】

暗闇の先にある廊下であっても、薄暗いですがライトをセットしてあります。上の写真で言うと、正面にある階段を上らずに左へ曲がる廊下の先にも【強度】が『35%』のライトを設置してあります。このライトが無いと、本当の暗闇になって何も見えなくなるからです。上の写真ではうっすらと教室のドアが見えています。

 それなら【減衰】を『なし』にすれば、少ないライトで隅々まで暗いなりにも光りが届くと考えそうですが、そうすると暗さと明るさの差が均等になり、のっぺりとした灰色に染められた異空間みたいになってしまいます。職員室の窓から漏れた光だけが暗い廊下に希望の光のように照らすからこそ、そこに人がいるのではないかという気配を醸し出すことができています。補足しますと、職員室のドアが少し開いているのも "光り" の演出です。黒い影が落ちた廊下に一筋の光が入ることで、ぐっと現実味を帯びてきます。




 ちなみに、目を凝らして真っ暗な中を睨んでいると、何かが見えてくるように感じるのは、【環境ライト】を次のように一般的な使い方から外れた設定にしているからかもしれません。

【一般】→【強度】が『14%』
【詳細】→【減衰】は『なし』
【影】→『シャドウマップ(ソフト)』にして、【濃度】を『90%』

環境ライトは【影】を使わないのが一般的ですが、ここではあえて【影】が出るようにしています。これは影を期待しているのではなく、暗さとわずかな明かりのコントラストを作るためです。


 下の写真をご覧ください。環境ライトだけにしましたので、かなり暗いですが、 "影あり" と "影なし" の違いです。

"影あり" ほうでは、下駄箱の背面の壁にそれ自体の影が出ています。そのおかげで壁の一部が暗くなって、下駄箱の存在を強くアピールしています。"影なし" のほうは、全体の景色が均等に見えています。本来はこのような使い方をするのが【環境ライト】なのですが、このままでは無感情な空気が流れてしまいます。
 そこであえて影を出すことで現れる、このわずかな違いからにじみ出た "濁ったような闇"、これこそが『そこに、何かありそう……』という感情を引き出しているのではないでしょうか。

 ライトオブジェクトという光を使っているにもかかわらず、気がつけば闇を作っていたことに驚きです。つまり、使い方によっては暗さを引き出すための "道具" として使用できるということに気づかされました。


《補足》
 ライトの【強度】を負の値にしても暗闇が出現しますが、自然な暗闇というより "墨" を塗ったような感じになります。しかし使いどころもあるはずですので、負の値でも使えるということを覚えておいて損はありません。
 そして重要なのは OM(オブジェクトマネージャ)で、 "どこに設置した何のライト" であるかをきちんと名前をつける習慣をつけて管理するのがコツです。完成までに何度もライトの位置合わせや強度などを調整するはずです。適当な名前で管理していると必ず混乱してしまい、いい加減で終わってしまいます。




 では次の課題です。
 暗さを強調させるために、ライトオブジェクトが必要だとはいっても、あまりたくさん使用すると、影や光の計算量が膨大になり、パソコンの負荷が大きくなって動きが重くなってきます。しかもこの『夜の学校』には続きがあって、学校の外にも世界を広げています。詳しくは、次の【明かりの漏れる家を作る】へと繋がっていくのですが、そこでもライトを多用することになり、次の写真のようにトータル 13個のライトを使用しています。

暗くて(夜ですので……)よく見えないかもしれませんが、建物類をすべて消して、運動場と使用しているライトだけにした写真です。
 13個ものライトを使用して、この明るさです。でもこれがいい雰囲気を出しているのかもしれません。

 ご存じの方もいるかもしれませんが、C4D Lの【一般設定】(【編集】→【設定】)にある【ビューポートハードウェア】の【最大ライト数】と数が一致していません。デフォルトの数値は『8』です。

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『作業中はこのライト数までしかプレビューしません』という数値

実は、この数値は作業中にライトから光を出せる個数でして、作業中にパソコンが息切れしないための "間引き設定" となっています。ということで、レンダリング時は無制限にライトを出せます。ただし、その分重くなりますので、ご自分のパソコンの体力と相談して個数を決めてください。

 ライトの個数に制限は無いといっても 13個も出すとかなりパソコンの動きが重いです。そこでこれ以上ライトを増やさず明かりを点ける方法があります。

 これがそうです。

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消火栓の文字と赤色灯

ギラギラとした電灯のような明かりは無理ですが、暗闇にぼんやりと光らせる非常灯のような弱い明かりにもってこいです。突き当りの壁に取り付けられた消火栓もくっきりと見えています。
 このような用途に使えるのが、マテリアルの【発光】チャンネルです。これならいくら出しても、ライトオブジェクトほどパソコンの負荷にはなりません。

 周囲を照らすのがライトオブジェクトで、自分自身が光って存在を主張するのが発光マテリアルです。この【発光】チャンネルを利用した光源は、このあとでとっても活躍をしますので、ぜひ覚えておいてください。

上の【発光】チャンネルは消火栓の『赤色灯』に使用しているマテリアルです。白とオレンジのグラデーションを利用して、中心を白に近づけることで赤色灯の明るさの変化として、それっぽく見せています。




明かりの漏れる家を作る小技メニュー(その2)夜の学校より     メニューへ戻る

学校の外にも世界は広がってると、先に宣言しましたが、まずはこの映像をご覧ください。職員室から玄関を通り運動場を突っ切って校門までカメラが移動します。

校庭の隅、木々のシルエットの隙間から住宅の明かりを覗かせることで、夜の静けさと生活の温もりを同時に表現してみました。
 通学路に沿って続くフェンス、その向こうで白く光る街灯、そして家の窓からこぼれる灯(あか)り。そこに暮らす人々の息遣いまで感じていただけたら、このシーンは大成功と言えるでしょう。




 比較しやすいように静止画で見てみましょう。。

画面右から漏れる白い光は、体育館の入り口にある常夜灯です。この少し冷ややかな白が "それっぽさ" を演出してくれます。対照的に、住宅の窓から漏れる灯りは、真っ白よりもほんのりオレンジ色(電球色)に。この温もりが生活感の鍵となります。そして、玄関の街灯も無機質な白がいいですね。





 すでに 13個のライトオブジェクトを使用していますので、パソコンの限界に近づいています。これ以上ライトを使わず、どうやって "窓からこもれる明かり" を作るのか、まずはもっと家に近づいてみましょう。

校門の正面にあるお宅の玄関に取り付けられた街灯は、【ライトオブジェクト】を使って白色光を放っています。この光が隣の家の壁をぼぉっと照らすあたりが、 "いい仕事" をしています。




 さて、窓の構造はどうなっているかというと……家をかたどるオブジェクトを【ブール】で型抜きし、室内に空間を作って窓枠をはめ込んだだけ。その「種明かし」がこちらです。

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ひどい絵……。

夜の画像とは雲泥の差です。驚くほど単純な仕掛けですが、周囲が暗闇になるだけで、人間の脳は不思議と "そこにある景色" として騙されてしまうのですね。



【具体的な構造】

『①』ブールを使って家本体から『室内の空間』を抜き取るための立方体です。
『②』スプラインパスで厚みを持たせた窓枠です。
『③』玄関のステップ部分を作るための抜き型です。
 肝心なのは、①の立方体に適用したマテリアルです。【発光】チャンネルに『ろうそくで照らされた実物の写真』を読み込み、光るテクスチャとして貼り付けているだけ。さらに、窓枠には【アルファ】チャンネルで半透明にした【平面】オブジェクトを重ねて「ガラス」を表現しています。

 この立方体に貼られた写真は、ブールの作用で型抜きされた "室内空間" の内側に現れます。もう一度、夜の状態を見てみましょう。

部屋の奥に見えるのは【発光】チャンネルで照らし出された写真です。ちなみに、右奥にある建物の窓は、アルファチャンネルにグラデーションを使い、透明度に変化をつけることで、スリガラス風に仕上げています。

【発光】チャンネルに読み込んだ写真ですが、ぼかしを入れて何が映っているか見えないようにします。手品の種は見えたらおしまいですから。




 続いて、景色に奥行きを与える『街灯』の作り方に移ります。

この範囲だけでも、5つの街灯を配置しています。②の玄関先だけは球体状に光を放つ【全方向】ライトですが、それ以外はすべて【スポット(丸)】を使用しました。指向性のある光で地面を限定的に照らすことで、夜のコントラストを生み出しています。

 また、道路を照らす街灯二つ(①と④)は【可視照明】を『可視光線』に設定。光の道筋を可視化することで、街灯の雰囲気が作れます。脳の中では、埃が舞っているようにも、灯りに集う虫の姿まで想像してしまいます。


 街灯本体は蛍光灯をイメージし、【円柱】オブジェクトに適用したマテリアルの【発光】チャンネルを白色で強調、さらに【グロー】チャンネルでぼんやりとした光のにじみを表現しました。
 ただし、C4D Lのライトは点光源が基本です。そのままでは円錐形の光になってしまうため、【座標】タブの【スケール値】や、【詳細】タブの【縦横比】を『2.0~4.0』に調整し、楕円形の光に近づくように工夫しています。

 ⑤は動画でも映っていた体育館の常夜灯です。これも【スポット(丸)】で地面だけを白く照らすようにしています。


《補足:AE連携の注意点》
 C4D Lのグロー効果は、After Effectsの Cineware経由だと少し弱く反映される傾向があります。思い切って強めに設定し、プレビューを見ながら何度か調整を繰り返すのが、イメージ通りに仕上げるコツです。どうしてもイメージが定まらないときは、無理に C4D L内で完結させようとせず、AEのエフェクトでグローを追加する方法も検討してみてください。その方が結果的にクオリティが高まることも多いです。




高層ビル街の夕景を作る小技メニュー(その2)夜の学校より     メニューへ戻る

住宅二軒の夕餉(ゆうげ)の風景とはまったく規模の異なるビル街に挑戦です。

 高層ビルが立ち並ぶ、いわゆる摩天楼と呼ばれる景色を C4D Lで作れないかと、チームのボスに言われて手を出したのがきっかけでしたが、やればやるほどに C4D Lでは無謀かと思うことばかりでした。

 ボスから貰った条件は、高層ビル街を下から見上げたアングルなので地面を作る必要はないということと、日没直後のオレンジの空は必須だということで、これは AEでもできますので、いくぶん気分は晴れましたが、最後に付け加えられた条件が、ビルの窓から漏れる明かりが無いと無人の廃墟になるので、ビジネスマンがバリバリ仕事をしている景色が頭に浮かび上がるような活気のある絵にしてほしいとのことでした。

 これまでは人がほとんどいない、うら寂しい景色ばかり手掛けていきましたので、その、真反対の条件です。
 まず夕景。これは何度もやってきていますから問題ありません。しかしビルの形は単純ですが、窓の数が住宅の比ではないほど必要です。そしてその窓から見える明かりが必須となると、ライトオブジェクトを使う……にしてもいくついるのか。


 未解決の問題は山ほどあるのですが、とりあえずビルから手を出すことにしました。

 まず、住宅のときのように、窓枠を一つずつ作って貼っていくなんてことはできませんので、ここは Ai(Adobe illustrator)で窓の白黒画像を作ります。

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窓枠の白黒画像は Aiで作ります

黒いところが透明になって、白が壁になるイメージです。ところどころに白いべた塗りがあるのは、カーテンで閉められている窓だってきっとあるだろうという単純な理由で追加してみました。



 それを【アルファ】チャンネルのテクスチャとして取り込み、メッシュオブジェクトに適用することで、ジャングルジムの側壁だけのようなものが完成しました。

ビルの色は【カラー】チャンネルで変えることができます。屋上と床部分に別の立方体でフタをして、とりあえずビル、というか、"鳥かご" が完成。

 ビルの形は二の次で、最大の問題はこの窓から漏れる光です。
 窓一つにライトオブジェクト一つ、なんてパソコンの処理能力をはるかに超えますので、ひとまず、中心に【可視光線】を出すようにした【ライト】オブジェクトを一つ置いてみました。

【詳細】にある【減衰】は、『2乗に反比例(物理的に正確)』にしましたが、光はビルの内から出てくるので、窓が黒くシルエットになって、ますます "鳥かご" 状態です。しかも、ライトに照らされた中が丸見えで、いくら頑張っても "鳥かご" 以外の何物でもありません。
 高層ビルの画像を色々見ましたが、室内はほとんど見えておらず、部屋の光が漏れているか、逆に窓ガラスに周りの景色や空が反射しているのが通常でした。


 ということで、この "鳥かご" 方式は大失敗です。窓としての形状は間違っていないのですが、ライトで中から照らすのは無理があります。ライト以外でその代わりになるものと言えば……。
 ふと脳裏をかすめたのは、【発光】チャンネルを利用した光源でした。ライトオブジェクトほどは輝きませんが、写真でも自ら光ってくれる便利なマテリアルです。
 取り込むテクスチャに変化を持たせれば、いろいろなビルの室内光として利用できます。



 これがその結果です。

『建物』と書かれた立方体よりも一回り小さくした、『室内』というオブジェクトをその中心に置き、二つのマテリアルを適用しました。二つあるということは、左のマテリアル(①)が下地となって、右のマテリアル(②)の【アルファ】チャンネルの透明となった部分に現れる画像となります。

 下地として使った写真は、住宅でも使用しました『室内をロウソクで照らしている』写真で、オレンジ色が基本となっているもので、なんとなくゆったりと落ち着くイメージになりますが、それだけではオフィスビルぽくなりませんので、もう一つのマテリアル(②)で白と青の無機質な "まだら模様" と、オレンジも少し混ぜた複雑な重ね塗りをしています。



 まずもっとも上に貼られるマテリアル、『②』のマテリアル設定です。

紺と水色の "格子状" の画像を【発光】チャンネルに適用し、それを【アルファ】チャンネルに適用した白黒のグリッドパターンで、細切れにしています。
【発光】チャンネルは【混合モード】を『乗算』にして、発光色のオレンジと混ぜて、少し水色を赤系に近寄らせています。さらに "ぼかし" も加えてぼんやりした明かりにしました。




 『②』のマテリアルの隙間(透明部分)に現れるのが、次の『①』に貼られたマテリアルです。

【発光】チャンネルに『ろうそくの写真』を使い、その【カラー】チャンネルのテクスチャに【タイル】の『四角形』を利用した窓に似せたものとを『乗算』で混合して複雑な色合いを出しています。



 作成するビルごとに窓の配列が異なりますので、マテリアルの数も自然と増えていきますが、それぞれに特徴があるほうが、ビル街の持つ、無秩序な形状の寄せ集めでありながら、秩序立ってかたどられた都市の複雑さが見えてきます。


 こちらがビルを配置している最中の写真で、林立する雑多な形の高層ビルをローアングルから見た絵です。

こっちのビルをあっちに持っていったり、前後を入れ替えたり、レンダリングされるカメラの映像を見ながらレイアウトは自在にできます。
 窓枠も同じものばかりではまずいので、立体的な枠組みを加えたりしてバリエーションを増やしています。
 カメラとレンダリングビューの関係はこちらをご覧ください。


 ローアングルから見た絵に迫力を加えるのなら、【カメラ】オブジェクトの【焦点距離】を『広角(25mm)』にすると、広角レンズ特有のパースの歪みが、ビルの高さを強調してくれます。

 また、今回のオレンジ色の夕空は、AEでは作っていません。AEで作ると、空の色とビルの側壁の反射光と色味が微妙に合いませんでした。青空のときは単純に周りが明るければそれなりに見えましたが、夕景のビル街はオレンジに染まる窓がものすごく重要だと悟りましたので、C4D Lで作りました。




 ただし、C4D Lでは【空】オブジェクトを使用しても AEで反映されません。ここでは次の写真の OMをご覧ください。『前面映り込み』と、AEでも適用される C4D L用の【空】オブジェクトとなる『背面映り込み』の二つの【球体】オブジェクト、そして、それぞれに適用された【コンポジット】タグにご注目ください。

どちらの【球体】も大きさは『200000mm』と巨大な球体のタイプを『半球』に設定したオブジェクトで、ビル街を覆っています。
 カメラの視点の先にあるのが "夕空" に見立てた『背面映り込み』で、オレンジのグラデーションが適用されたマテリアルが貼られています。
 もう一つの『前面映り込み』は、カメラの後ろ側に設置されたもので、これは夕空とは反対側になるビルの側面に映り込むためのマテリアルが貼られています。この映り込み用のマテリアルの詳しくは、【リアルな金属表面を作る:コンポジットタグを使う】をご覧ください。ここでは『背面映り込み』に適用している【コンポジット】タグの説明をします。


 映り込みに利用する『前面映り込み』オブジェクトは、『カメラから見える』のチェックを外して、レンダリングしても映らないようにしています。しかし、『背面映り込み』は夕空ですので、逆にカメラに映します。ただ、ビル街を覆う空は巨大です。夕暮れのビル街を薄暗く照らす程度のライトオブジェクトでは、写真のようにキレイなオレンジ色の輝きを放ってくれません。そこで、コンポジットタグの【背景に合成】のチェックを入れます。するとライトの強さに関係なく、オレンジのグラデーションが適用されたマテリアルが美しく描写されます。

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【背景に合成】のチェックを入れる


 また、ビルの側壁に適用したマテリアルでは、【反射】チャンネルの『beckmann』を利用して【鏡面反射強度】をかなり上げて、周りの景色を反射するようにしています。中でも、太陽があるであろう方向に向いたビルの側面が、夕映えに照らされているように見えるのは、『beckmann』の【レイヤーカラー】を濃いオレンジにしているからです。これによりオフィスビルの側面に映る景色がリアルに再現されています。




 ローアングルのカメラを移動させて動画したのがこちら。

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色深度 "16bpc" ネイティブなレンダリング設定、【H.264】でエンコード

窓の配列が規則的過ぎるビルもありますが、とりあえず、それっぽく見えています。
 壁に夕日が反射して赤く染まった景色が、カメラの動きに沿って変化していくようすは、C4D Lでないと出せない芸当かもしれません。




【32bpc作業に挑戦】

本来ならこれで解説は終わるところですが、ここからは、"C4D Lでもここまでできるぞ" というサンプルにしたかったので、色深度を 32ビット(32bpc)にして光の美しさを極限にまで出す試みをしてみました。

 興味のある方はこのまま読み進めてください。何らかの参考になるかもしれません。



 色深度を 32bpcにするといわれてもピンとこない方に説明しますと、作成する画像を何色使って描画するかという話になります。12色クレヨンより 24色のほうが、繊細な表現力が上がります。 これは、単に色が増えるだけでなく、色と色の間の『中間色』をどれだけ滑らかに埋められるか、という階調(かいちょう)の豊かさに関わってくるからです。
 それと同じで画像処理アプリにもそのような設定があります。それが色深度と呼ばれていて、ビット数で表します。AEや C4D L、Photoshopでは 8,16,32bit 深度が用意されています。

 パソコンの画像は、赤(R)、緑(G)、青(B)の 3色の組み合わせで作られていますが、この各色の強さをビット値で表しています。1チャンネルあたり、何ビット使えるかという単位、『bpc(Bit Per Channel/color)』で表します。

 世間一般的に言われている 16ビットカラーは赤・緑・青の色全部合わせて 16ビットという意味になり、少々古い表現です。現代の "16bpc" は『1色だけで16ビット』。つまり合計 48ビット分(アルファチャンネルを含めれば64ビット)の情報量があることになります。

 例えば "1bpc " なら、赤・緑・青の各色にスイッチが 1つずつある状態ですので、0(消灯)か、1(点灯)の 2通り(2階調)です。その組み合わせは全消灯の黒を含めて合計 8色(2×2×2)になります。

 これが "8bpc" なら『2の8乗』、各色 256階調となり、256×256×256 = 約1,677万色になります。同じように "16bpc" は『2の16乗』、各色 65,536階調なので、その組み合わせは 65536の3乗で、約 281兆色です。かつての名機 "X68000XVI" が 16ビットカラー(合計65,536色)で世界を驚かせた時代がありました。しかし、現代の映像制作で使われる "16bpc" は、その比ではありません。一色だけで 65,536段階あるのです。

 さらに今回は、それを "32bpc" で使おうというものです。何色になるか、そんじょそこらの電卓では計算できません。2の32乗が 3色ありますので、2の96乗。計算すると 79,228……と続く 29桁の数値になります。
 まとめますと、32bpcが扱う色の組み合わせは約792穣(じょう)色!(万、億、兆、京、垓、𥝱(じょ)と続き、その次が "穣" )
  "X68000XVI" 時代の 6万5千色を『1』とすると、その差は1200兆倍以上。この天文学的な数値で作業させてみようという、無謀ともいえるチャレンジをしてみました。


【32bpc(浮動小数点)」の真のメリット】

32bpcは単に色数が多いだけでなく、『1.0(白)』を超える明るさを保持できるのが最大の強みです、と一般的な説明ではこう明言されていますが、 "なぜ 1.0が『白』なのか。なら『黒』 はいくつだ" と疑問がわくと思います。

 ネットの説明を探してみても、だいたいは "0.0 - 1.0の範囲で1.0を超えると全て同じ白色になります" と出てきて、ますます意味不明になっていきますよね。
 ここで混乱のもとなっている "0.0 - 1.0" を説明します。黒は『0.0』です。これは絶対的な最低値で、これ以上暗い光はありませんから、黒は『0.0』です。なら、白が『1.0』なのはなぜか。

 これは実際のところなんでもいいのです。そういうところが、光と音の世界はとてもよく似ています。

・音:無音は『-∞dB』が最低値で、それより "無音" はありません。
   逆に音圧に "上限" は事実上ありません。
・光:漆黒は『0.0』が最低値、それより "暗い" はありません。
   逆に明るさに "上限" は事実上ありません。

物理世界ではこのようになっていますが、人工的な機械を通してコントロールする場合は上限が現れます。それは機械が扱うことのできる数値に限界があるからです。
 それをサウンドでいえば『0dB(フルスケール)』としているように、映像では『1.0』をモニターの白に対応させただけでのことです。

  "8bpc" や "16bpc" のフルスケールはモニターの『0.0~1.0』を256段階や65536段階に分解していますが、"32bpc"は浮動小数点演算ができますので、その範囲をずらして巨大な数値を維持できます。たとえば、数値の精度の目盛りが4桁あるとしましょう。


    1.050(モニターで見える限界付近の細かな差)
10.50(その10倍の明るさでの0.1刻みの差)
105.0(さらにその10倍の強烈な光の中での1.0刻みの差)

登場する数字は『1、0、5、0』だけの数字で構成された数値ですが、小数点の場所が異なるだけで、それぞれに10倍の違いがでています。これが浮動小数点演算の基本です。これを利用して、『0.0』に限りなく細かい『0.000001』や、モニターが『1.0』以上はいくら上げても "白" としか表現しないよ、という数値をはるかに超えた『10000.0』なんて数値を保持することができます。

 モニターが映し出せるのは『1.0(白)』までなのに、記録されたデータは強烈な光の情報を持っていることになります。それこそが "32bpc" のものすごさで、『Deep Glow』のようなエフェクトが計算するときに、この巨大な数値を参照して、本物のような光の滲みを作ってくれるからです。 『見えないけれど、そこに実在する数値』が、映像に宿る美しさの正体だと考えています。


 そんな "32bpc" の画像を出力するには、AEと C4D Lともに設定をする必要があります。
 C4D Lでは【レンダリング設定】の【保存】の項目で、【色深度】を『32Bitチャンネル』にします。

 さらに今回は、"32bpc" という超滑らかな色合いの効果を高めるために、【アンチエイリアス】の項目を開いて、【アンチエイリアス】を『ジオメトリ』から『ベスト』に替えます。これは、階段状のギザギザ(ジャギー)を、周囲の色と混ぜて滑らかにする役目をもっていますので、カメラが動いたときのピクセル間のズレを非常に細かく計算します。このおかげで、窓枠などの細い線が "消えたり現れたり(フリッカー)" するのを物理的に抑え込んでくれます。

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C4D L側のレンダリング設定



 AEの設定は【プロジェクト】設定の【カラー】タブで、【作業スペース】を『Rec.709 Gamma2.4』にして、【色深度】を『32bit/チャンネル(浮動小数点)』に、そして【作業スペースをリニア化】にチェックをいれて、ProRes 4444でエンコードしてみました。




 Prores 4444は 12bit処理ですので、でき上った『.mov』ファイルは "32bpc" をフルで再現できていません。しかし、それを再度 "32bpc" の AEで『Deep Glow』などを利用すると、その光は "32bpc" で計算されるため非常に美しく仕上がりました。

 ではここで、"16bpc" と "32bpc" の差を見比べてみましよう。

16bpc

32bpc


カメラが動き出すと "16bpc" のビルの窓に現れるフリッカーが目立ちますが、"32bpc" のほうは、ほとんど抑えています。またビルの側面に映り込む色味の変化も比べ物にならないほどに滑らかです。さすがに最高設定だと言い切れます。

 しかし、レンダリングに要した時間に関しては驚きの結果が出ています。
 解像度『1280×720px』という小規模な素材でテストしましたが、ネイティブなレンダリング設定では、約 50分ちょっとでエンコードが終わっています。しかし "32bpc" では、同じサイズなのに、何と 5時間58分(約6時間)も掛かったという代償を払っています。


 今回の制作環境を参考までに……。

 CPUは、"i9-14900" 24コアで、RAMは128GB、グラフィックボードは "RTX4070S" です。





【12bit素材+32bpc作業の実用性】

理論上の最高値は OpenEXR(32bit float)ですが、これですべての作業を行うのはモンスターマシンを使わない限り現実的ではありません。そこで "32bit" の C4D L素材を ProRes 4444で "12bit" 素材にエンコードして、それを AEの 32bit設定でエフェクトなどの再計算をする"。これが、データの扱いやすさと仕上がりの美しさを両立させる、現時点での『実用的な最高品質』だと考えています。

 なぜ?
 まず、8bit(256段階)画像だと、すぐに計算の限界が来て、色が破綻して、マッハバンド(階調の境界線が目だって見える現象)が出ますが、12bit(4096段階)にすると人間の目にはほぼ完璧な滑らかさ。AEでの合成(DeepGlowなど)に耐えうる "粘り" があります。そこで、32bit floatが理想ですが、それだとストレージと計算コストが跳ね上がる結果になります。

 ちなみに、よく使うエンコード設定の色深度を比較してみると、

① H.264 (8bpc): 各色 256段階(全1,677万色)
② H.265 (10bpc): 各色 1,024段階(全10億色)
③ ProRes 4444 (12bpc): 各色 4,096段階(全687億色!)

※②が最近のHDR動画の標準ですが、再生負荷が高く、モニターの色再現性にも左右されるため、一般的な Web公開用としては "8bpc" がまだ主流です。

ということで、"8bpc" と "12bpc" では、表現できる色のバリエーションは 約4,096倍 にも跳ね上がります。その結果が先ほどの映像に現れていますね。


 ここで、気づかれた方もいると思います。"12bpc"エンコードをして、"32bpc"でエフェクト作業をしても、結局は "H.264" や "H.265" のコーデックで、"8~10bpc" に落とされているじゃないかと……。
 実はそのとおりなのです。最終的にその画像を見る人のほとんどは、パソコンのディスプレイです。よほどのこだわりを持った人でないとそのディスプレイの大半は "8bpc" 色です。つまり、約1600万色までしか出せません。

 現実はそのとおりなのですが、映像の書き出し設定を適切にすれば、ただの "8bpc" で制作した画像と今回のような手の込んだ方法で作り上げたものとでは、はっきりと差が出ます。それは最も影響の出る画像のエッジ部分、今回の例でいうと夕日のオレンジとビルとの境目あたりの変化です。ここを簡易的な計算で、まとめて丸めてしまうのと、その段階も正しく計算して微妙な色の変化として表現していくとの差が出てきますので、最終的に "8bpc" のディスプレイでもその違いが見えるというのが、理由です。

 ただし、正しい手順で色の計算をするように段取りを取らないとこの作業は無駄に終わります。
 今回も Adobe Media Encoder(以降 AMEと記載)に AEの画像を渡す際に極度に画像が暗くなってしまう現象が起きました。おそらく "カラープロファイル" の違いによるものだと思います。それを回避するために、AEの作業レイヤーに調整レイヤーを作って、それに【エフェクト】→【ユーティリティ】→【カラープロファイルコンバータ】を利用して、AMEとの食い違いを直したところ正しい明るさに戻すことができています。

 そのときの工程を覚書としてここに記載しておきます。AEと AMEの両方の設定を見直しています。



【AMEとの食い違いを正した覚書】
 AEでエフェクトの【カラープロファイルコンバータ】を調整レイヤーに掛けて、映像全体に効果を求める。
①【カラープロファイルコンバータ】の設定
  【入力プロファイル】に、『プロジェクトの作業スペース』を入れる。
  【出力プロファイル】に、『sRGB IEC61966-2.1』を選んでいます。
  【マッチング方法】は『相対的な色域を保持』に。
   残りはデフォルトのまま。
② AEのプロジェクト設定
  【ビットデプス】は『32bit/チャンネル(浮動小数点)』にする。
  【作業カラースペース】は『Rec.709 Gamma2.4』のまま。(映像の ".mov" ファイルがその仕様になっているため)
  【作業用カラースペースをリニア化】のチェックを外す。

 AMEでコーデック【H.265】の『ビデオ』タブの設定をして実際にエンコードする。
①【基本ビデオ設定】の『幅』、『高さ』、『フレームレート』はソースに合わせる。
②【最大深度でレンダリング】にチェックを入れる。ここを入れないと "10bpc" でエンコードされない。
③【パフォーマンス】を『ソフトウエアエンコーディング』にする。
④【プロファイル】を『メイン10』にする。
⑤【レベル】を『5.1』以上にする。 ⑥【層】は『高』を選ぶ。
⑦【ビットレートエンコーディング】は『VBR,1パス』を選ぶ。
⑧【ターゲットビットレート】を今回は『20Mbps』に。
⑨【最大ビットレート】も今回は『40Mbps』にする。
⑩【最高レンダリング品質を使用】にチェックを入れる。

この状態でエンコードした【H.265】と【H.264】とを最大画面で見比べると、【H.265】のほうが夕空のオレンジとビルの輪郭がくっきりとしているように見えます。また、ビルの側壁に反射する隣のビルの影もピントが合って見えるのは、"10bpc" という 10億色の絵具を使用した結果ではないでしょうか。



【H.264】と【H.265】でエンコードした違いです。見比べてみてください。画面が大きいほど違いが見えてきます。

H.264 (AVC)

H.265 (HEVC)

(ブラウザや、再生環境によっては【H.265】が表示されないことがあります)


 "16bpc" と "32bpc" の違いはよく見えたのですが、画面が小さくなると【H.264】と【H.265】の違いがよく解らなくなるのは、ワタシの目が良くないせいでしょうか。それとも、"8bpc" のディスプレイを使っている限り、よほど大画面にしない限り【H.264】でもまだいいということなのでしょうか。
 このあたりは、1280×720サイズでも小さなディスプレイだと気にならないけど、27インチサイズ以上になると見るに堪えられなくなるのと同じなのでしょうか。






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【4年間を振り返って】


 初めて 3Dが重要であると気づいたのは、Flash MXを使っていたときでした。2002年のころです。それ以来、何度も挑戦するのですが、すべて挫折で終わっています。なぜこんなにわずらわしいことをしなければ立体映像が作れないのか、2D映像のやさしさと比べて苛立ちさえも覚えていました。でもいつのころかその苛立ちの原因が 3Dに関する知識があまりに薄っぺらだったことに気づき、これは一朝一夕ではなしえるものではないと悟ったのかもしれません。急激に弛緩してかつ強く思いました。今度で最後にする、と。
 それなら何から手を出すか。よく見ると、とてもいい教材が手元にあったのです。AEや C4d Lですね。おかげでふと頭が軽くなったのを覚えています。時間はかかってもコツコツやっていこうと思い立ったのが 3年前でした。

 まどろっこしい 4面ビューが最も重要だと気づかされ、回転の呪縛では、回転ツールを使ったときと、回転軸の数値を変えて回転させたときとでは結果が異なるということに気づき、回転するアニメーションに起きるジンバルロック現象を理解したあたりから急激に目の前が開けた気がします。
 よく意味の分からなかったマテリアルやテクスチャ、そして投影法。このときも、なんでこんな方法でしかマテリアルを表面に貼れないんだろうと感じたのを覚えています。しかし投影法の『平行』の使い方をマスターできたときには、ほかの投影法の意味も理解していました。一つが解けると次々とパズルが解けていく気分で爽快です。

 次は正規版の C4dにグレードアップです。さらなるスキルアップを誓って、この世界が尽きるまで歩き続けたいと思います。





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