【星屑の囁きみたいに些細な出来事】 作:雲黒斎草菜(利用規約


この物語はフィクションです。実在のよく似たタイトルの作品・土地・人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。

『星屑の囁きみたいに些細な出来事』【第二章:時を制する少女】 作:雲黒斎草菜
2017年 1月 7日(土)

セカンドミッション(武装するオンナたち)


 次のミッションまでにまだ半時(はんとき)あるという優衣の説明で、俺たちは動きやすい衣服に着替えることにした。何しろ出社した時のまんまの格好なんだから動きずらい。
 とは言ってもオシャレな物はない。銀龍のロッカーに入っていた作業用の、まぁジャージみたいな物だ。

「え~~~っ!」
 玲子は露骨に嫌な顔をするものの、秘書課の短いスカートでは自由に動けないため、渋々着替えたようだ。俺的にはスカート姿のままで、ある程度、動きを拘束されたほうが安全で、かつ目にもいいのだが──言っとくが俺はスケベでもなんでもないから。

 優衣と茜は何の文句も無く、備え付けの作業着を貰って、はしゃいでいた。安上がりでリーズナブルなアンドロイドたちだ。ケチらハゲにはマストアイテムと言うヤツだな。

「ちょっと片づけますねー。みなさん、どいてくらさーい」

 部屋に山と積み上げられた重々しい部品や装置の山は、宇宙船、銀龍に取り付けるプラズマフォトンレーザーのプラズマ発生器だと言う。
 ナノミリメートルまで焦点を絞ったプラズマフォトンレーザービームは、巨大なエネルギーの束になり、小さな衛星程度ならそのまま切り刻めるほどのパワーを出すと言う。

「えらい物騒なモノが必要なんでんな……」
 さすがに社長も尻込みをしたが、優衣は平坦な声で答える。
「ネブラの新型デバッガーの強さはこんなものではありません。ワタシは何度も連中の武器で大きな惑星が瞬時に消えるのを見ています……ただ、このフォトンビームの最大パワーを作るだけのエネルギーがこのギンリュウさんでは不足しています」

 ケチってパワーコンジットをランクの低い物にするからだ、とはっきり言ってやれ、優衣。

「ほな、取り付けても意味おまへんがな」
「いえ。デバッガーにはかないませんが、未熟なドロイドにはじゅうぶん対応できます」

「せやけど。宝の持ち腐れっちゅうわけや」
「おいおいその問題は解決できると思います」
 優しげな瞳を天井に向けた。
 そこには船内のゴキブリと化したシロタマが張り付き、つまらななさそうにしていた。

「こっちにはシロタマさんがついてくれてます。鬼に金棒です」
 天井の球体はもそりと動き、
「ふんっ。どれも猿ドモには使えないでしゅよ」
 と憎たらしい言葉を吐いて、どこかへ飛んで行った。ゴキブリは空をも飛べる。

 あー。腹の立つ野郎だ。


「ねぇ、これなぁに?」
 目を輝かせて玲子が摘み上げたのは、会社の記章みたいなバッジ、とも見える代物だった。文字などは記載されていないが、幾何学模様と不思議なグラデーションで彩られており、さっそく透かして見たり、自分の胸元に当てたりしていた。
 たぶんブローチか、その類(たぐい)と勘違いしているのだろう。

「ほら、こうしたら装身具になるわ。キレイよー」
 やっぱりな。

「レイコさんそれ逆さまです」
 優衣は一旦玲子から取り上げ、上下を逆にしてから、もう一度渡した。
「それで──。これ何?」
 上下が逆さまになろうと、それは不思議なバッジにしか見えない。
「それは偽装シールドバッジです」
 と切り出してから、
「デバッガーが出すスキャンレーザーのスペクトルを読み取り、それとはまったく逆のマイナススペクトルを放ち、こちらの存在を消しさる物です。これを身体に貼りつけておけば、ドロイドに捉えられることはありません」

 こんな小さな物……でか?

 優衣に手渡されたバッジを胡乱げな目で見たのは俺だけではない。ハゲオヤジなど匂いを嗅いだりして、大いに訝しげだ。
「何も臭わねえぞ?」
 つい真似をしてしまうのは俺の習性だな。
「金属臭がするダ」
 ブタは確かに鼻が良いが、結局みんなで鼻先に持って行ってしまうのは、人間の性(さが)で、俺だけではないようだ。
「ほんまやな。臭いまんな」
 恥ずいな。ほんと。

「こっちはなんでっか? 水鉄砲みたいでっせ」
 またもや社長が胡散臭げに眉をゆがめて、何かを握りしめた。
「あっ、トリガーを引かないで! 後始末がたいへんです」
 優衣が飛びついて取り上げた。

 銀龍に取り付けるフォトンなんとかのパーツと一変して、こっちはちゃっちい形で、いかにも玩具っぽいが……。
「これは粘着銃です。強力な接着剤が放出されます。張り付くとそう簡単には引きはがせなくなります」
「そんなもんが何の役に立ちますんや?」
 社長が首をかしげるのも無理はない。
 なんで日曜大工に使う物が混じってんだ?
 と釣られて首を傾けたいところだが、後で意外と使えることが判明しする。

 で、結局、説明もそこそこに、優衣と茜はせっかく過去から持ち込んだ機材なのに、船尾の格納庫へ片づけてしまった。まるで俺たちの目に触れないようにするみたいに。なかでも重量のあるグレネードランチャーのお化けみたいなヤツは、ひと言、「粒子加速銃です」と告げるだけで、さっさと隠しちまいやがった。

「何で隠すんだろうな?」
「さあね。知られたくない理由があるんじゃない。でもさ、パッと見(み)だけど、ライフルよりはるかに大型だったわ。ロケットランチャーでもなさそうだし……もしかしたら対戦車砲かも知れないわ……それとも。あ、まさかサーモバリックの発射ブースターかな?」

「女のくせに詳しいヤツだな。サーモバリックってなんだよ」

「知らないの? 加圧気化爆弾よ」
「知るか!」
 世紀末オンナの趣味は格闘技や剣術だけでなく、重火器にまで渡るバカなのだ。

「どうせ茜が作ったものだ。豆鉄砲の仰々しいやつだろ」
 玲子は「ばーか」と俺をあしらい、茜は好奇な目をして尋ねる。
「マメデッポウってなんですか?」
「子供のおもちゃさ。丸い豆粒が飛び出んの」
「あー。よく似てます。先っぽから出るのはエネルギー化したシードです」
 と言ったところで、茜は優衣に睨まれて黙り込んだ。

 そこまでしてなぜ秘密裏にするのだろう。今の会話の何がまずかったのかな?
 エネルギー化の部分か?
 シードの部分だろうか?
 なんだかよく解らん。

 結局、あれが何なのか、性能、威力、すべて謎のままで話は終わった。
 もちろん、玲子だけでなく俺も消化不良のままだが想像はつく、こけおどしのハリボテさ、威力は豆鉄砲クラスに決まっている。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 セカンドミッションを随行するため、俺たちは長老たちが住むスフィアとは別のスフィアへ忍び込んだ。
 頭の重くなる話をしよう。今この惑星には同じ世界が三つも重なった非常識な状態になっている。それらを影響することなくうまく掻い潜らないといけない。なかでも過去の銀龍に発見されないように、こっそりとする必要がある。そうでないと、俺たちの記憶が書き換えられてしまい、さらなる厄介なことになっちまう。

「ほな。パーサー。指定場所に転送してくれまっか」

 舞黒屋製の転送機で侵入するのはちょっと心細いが……ひとまず問題のコロニー、第一因子の寄生バックアップのある別のスフィアへ転送された。

「すげえありさまだぜ……」
 実体化した俺たちは、分かってはいたが目の前に広がった廃墟を目の当たりにして、改めて息を飲んだ。

 村が広がっていたであろう場所には、瓦礫が山と積み重なり、まともに形を残した物がほとんど無い。あの頑丈だったフェライト製の隔壁が半壊した状態で突っ立っており、ところどころに残る銃弾の傷痕や争った痕跡(こんせき)が痛々しい。そして足下を埋めるのは、ほとんどが部品と化したドロイドの残骸だ。

 その中で今にも動き出しそうな状態で停止したヤツらは、今田の作ったコンピュータウイルスに侵されて機能不全を起こした連中だ。ざっと見ただけで数百。突っ立った状態でずらりと並び、マネキン人形の倉庫を見るようだ。

「何だか寒気がするわね」
 まともにこいつらと戦った玲子ならではの感想だ。このタイプのドロイドが貧弱だとは言え、これだけの数に一斉に襲われたら、ひとたまりもないのは目に見えている。

 ドゥウォーフ人も恐ろしいものを作っちまったものだ。

 社長は嫌悪感むき出しで見渡し、
「このスフィアの人らは、全員こいつらにやられたんやろ……むちゃくちゃや」
 誰もいなくなった空間に社長の声が響いていた。


「エンジンプロセッサーが起動されるのをどこかで監視しましょう」
 粒子加速銃を肩から掛けた優衣が指差す先に、天井の抜け落ちた地下空間が剥き出しになっていた。

「ぐちゃぐちゃだぜ……」

 このスフィアもさっきまでいた機関室と構造は同じで、中央にオレンジ色のテトリオン球体槽が設置されていたが、無惨にも粉砕されており、飛び散った中身が、いたるところで粘性の高い水溜りを拵えていた。

 元の歴史では、ここにバッカルがやって来て、点火チップを抜き取るためにエンジンシステムを起動する。すると寄生バックアップされていたドロイドのシステムが、山積みになったどれかの筐体にアップロードされたのだ。それがプロトタイプとなって450年後、500兆に膨れ上がる。

 今回はバッカルはやって来ない歴史に書き換えられたので、ここで何が起きるか監視するのだ。そして起動したドロイドを破壊するのが、今回の時空修正だ。

 半壊した壁の後ろに隠れることにして、機関室の瓦礫を踏みつけ先へと進んだ。

「みなさーん。シールドバッジを起動させますよー。敵から見えなくしてさしあげまーす」
 茜のはしゃいだ声がワァーンワァーンと響き渡った。

「うっせえなぁ。幼稚園の先生か、お前は!」
「幼稚園ってなんですか?」
「お前みたいのがウジャウジャいるところだよ」
「ああぁ。コンベンションセンターの控え室ですねぇ」

「ウソ吐け。お前しか起動していないって言ってたじゃないか」
「あ、はい。起動していたのはわたしだけです。でもパーツは15人分ありましたよぉ」
「パーツって……。ただの部品状態なんだろ?」
「でも、半完成状態ですから賑やかですよぉ」

「う……」
 俺は首から上だけの茜が棚にずらりと並んで、おしゃべりに花を咲かせる光景を思い浮かべて身震いした。

「おもちゃ箱の中みたいだな……あうっ!」
 怖い顔した社長に睨まれていたのに気付き、急いで視線を落とす。

「おまはんらこの緊急的な重要時に、ようそれだけくだらんお喋りができまんな。もったいないから、無駄口は厳禁やちゅうてますやろ」
 ドケチにもほどがある。口を動かすのぐらい自由にさせろ。

「あっ」
 鈍い振動が渡ってきた。

「主宰が乗るスフィアのエンジンが始動した様子です。前回の時空修正が正常に行なわれたようですね」
「ほな、そろそろこっちのエンジンプロセッサーに誰かが近寄りまっせ」
 俺たちは急いで隔壁の後ろへと身を滑り込ませた。

「ここに機能停止しとるドロイドを全部破壊したら、それで済みまへんか?」
 と問いかける社長に優衣が気の毒そうに答える。
「せっかくですが……少しぐらいの破壊では、進化したデバッガーが簡単に修復します。かといって、大規模な爆発を起こせばドゥウォーフの住民が異変に気付き、宇宙船の出発を遅らせる可能性があります。そうなると新たな時間の流れが起きて、事象がさらに複雑になります」

「それなら動き出す筐体を先に見つけ出して、ぶっ潰しましょうよ」
 玲子の意見ももっともだが、特定するのはおよそ不可能だと思う。スクラップ状態のドロイドはここから見ただけでも数百はある。

 すったもんだしているところに、いきなり虹色の光が空間に発生すると、5体のヒューマノイド型の物体が実体化した。
 ひび割れた瓦礫の隙間から優衣が声を潜める。
「あれがダークネブラの誇る最新デバッガーです」
「き、来やがったか」
 壁に背を預け、ついでに胸のシールドバッジを叩く。これを押すたびに偽装周波が更新されて、よりデバッガーに発見されにくくなると茜は言っていた。

「そんなに叩かなくてもいいんですよぉ」
 呆れた風に顔をしかめる茜。
「ロボットに言い聞かされたくねえぜ」
「ユウスケさん。一度更新すれば数千万通りのパターンを作成しますから気になさることはありません」
「ほらな。ユイみたいに優しく言えよ。アカネ」
「うふふふ」
 こいつ、笑ってこの場をいなす気か?

 ごっ!
「痛で!」

「静かにせんかい! 園児はおまはんのほうや!」
 すいやせん。