【星屑の囁きみたいに些細な出来事】 作:雲黒斎草菜(利用規約


この物語はフィクションです。実在のよく似たタイトルの作品・土地・人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。

『星屑の囁きみたいに些細な出来事』【第一章:旅の途中】 作:雲黒斎草菜
2016年 12月28日(水)

 そうなんです。遭難です


「社長さんが助けたオジイちゃまたちドゥウォーフの人々は、管理者の祖先だったんです。それであの時、ワタシの基本言語が通じたんですよ」
 ナナは驚天動地的な言葉を並べたくったのだが、誰一人としてその意味が理解できずに、ただポカンとした。

「なに言ってんのナナ?」
「え? 管理者の……ご先祖なんです」
 恐ろしく理解力の無い俺たちに呆気に取られたのだろう、今度はナナが目を剥いて凝固する。

「あんな。祖先ちゅうことは、おまはんを作った人らの爺さんやちゅうことやで。つまり同じ人種ちゅうことや。この広い宇宙で有りえへんがな」
 と社長が言い、俺も続く。
「さすが言語品位がレベル7にもなると、ジョークも高尚になるな。でもちっとも面白くないぜ」
 サワサワと黒髪を振るナナ。
「ほんとうなんですよ。ワタシもびっくりしたんです。でも何百年も調べた結果、そうなったんですよ」
「わははは。ワシはおもろいで、こういうのがヘソが茶を沸かすちゅうねん」
 社長は笑いながら手を大きく振り、自分の椅子に腰掛け、湿気しけたた息を吐いた。

「はぁーあ。おもろな……」
 どっちなんだよ。

 ナナは「何をどう調べたんだ」と尋ねる俺に胸を張って答える。
「DNA鑑定でも100パーセントでしたし、それを管理者に報告しようとしたらすでに知っていて、そのためのコンベンションセンターだって言うし……」

「だったらこっそり地面から出さずに、堂々と贈呈式でもしてくれたらいいのに」
 玲子も信じられない、と笑いながら完全否定。

「ワタシにもまったく知らされていなかったんです。だってコマンダーと先に3万6000光年先に飛ばないと時間項が確定しないらしくて……」

 ナナは平気で混乱に混乱を重ねる意味不明の説明を続けるので、こっちはますます困惑の深みにはまっていく一方だ。
「コンベンションセンターがワシへのお礼って……意味わからへんがな。そんなもん、なんぼする思ってまんねん」
「値段の問題じゃないと思うぜ」
 社長は意味不明の贈答品に混乱しているが、俺だって逃げ腰だった。
「コマンダーは解約済みだから、俺は関係ねえよな?」
「ううん。解約はしていません。コマンダーは生涯ユースケさんひとりです」
 漆黒の潤んだ瞳が俺のすぐ前まで迫って来た。
「これからもよろしく……ね」
 んぐっ……。
 生唾ごっくんだ。

「その申し出はとてもうれしいのだが……。いやいやいや。迷惑だ」
「だめ。もう離れませーん」

 俺に抱き付いたナナを玲子はいとも簡単に引き剥がし、
「あなたねー。勝手なこと言わないで。だいたいね。3500年も時間が経ったなんてウソ言って……。もしかしてここに侵入して来た新たなアンドロイドじゃないの? どうなの?」
 厳しい口調だ。もしかして嫉妬してる?
「んなワケないでしょ!」
 こっちに首を捻り、鬼みたいな怖い顔で俺をひと睨みしてから、もう一度ナナと向き合う。

「それなら、あなたが本物だという証拠を見せなさい」
「いいですよ、レイコさん」
 そう言われることは承知していたのか、自信たっぷりの態度でワンピのポケットから褐色の布を取り出した。

「なんダす……えらい年代物の布切れダすな?」

 田吾が覗き込み、玲子も釣られて視線を移動。
「布がなんだって言うのよ……。あっ!」
 途中で息を詰めた。

「こ……これは」

 ナナは、広げられた玲子の白い手のひらに、そっとそれを置き、
「旅立つ時にいただいたレイコさんの黄色いリボンです。大切に保管していたんですが、ナノチューブ入りと言えど、劣化が激しくて……。これが最後の切れ端です。間に合ってよかった」

 それは忘れるはずもない。さっき手渡したばかりの品物だ。見覚えのある幅は維持しているが、長さはほとんど無くなり、黄色だった元の色は褐色に変色していた。
「こんなにボロボロになって……」
 まるで国宝級の物を扱うみたいにして、玲子は両手で持ち直し、ナナはこともなげ言う。
「皆さんのことは、この3500年間、一度も忘れたことはありません。いつもこのリボンを見て思い出していたんです」
 さらに気が遠くなるようなことを言う。
「あ、そだ。ね。ここを見て。ちゃんと証拠になるでしょ?」
 ほっそりとした指先で示した布地の隅っこ。

「ワシが店に頼んで刻印してもろた、玲子のイニシャルが残っとる」

 社長が指す部分。黒ずんだ文字が紛れもなく玲子の物だと猛烈にアピールしていた。

「本当に3500年経ったのか?」
「信じられませんか?」
「そりゃあ……そうだろ。なあ?」
 俺の声はどんどん小さくなるし、賛同を得ようと問い掛けたが、誰もが言葉を失っており返事もない。

「それなら……。みなさんと共にした経緯をお話ししましょうか」
 ナナは微笑みを絶やさず、イクトから飛ばされ、スフィアに迷い込んだ行程など、すべてを一切間違うことも無く説明し終えた。

 俺たちにとってはまだ鮮明な記憶だ。忘れるはずがないのだ、それと完全に一致していた。
「本物の、ののかちゃんダす」
 田吾は大きくうなずき納得。
 何を質問しても、まったく揺るがない回答に、返す言葉が無い。

「じゃ……じゃあ。管理者の先祖という話は?」
「ほんとうの話、ですって」
 ナナは大げさに全身を使って大きくうなずき、たたたと社長の前まで駆け寄った。
「そういうことで、ぜひコンベンションセンターを受け取ってください」
「そう言うけどなぁ」
 社長は、すぐ頭の上でじっと話しの進行を観察するシロタマへ視線を振ってから、ひとまず溜め息を吐き、2秒経ってから実に小さな声で囁いた。

「じ……辞退しますワ」
「はい?」

「じ、た、い、します!」

「え───。どうしてですか。すごい技術が満載ですよ?」

 社長は拳を握りしめ、ナナではなくシロタマを睨み倒した。
「異星人文化の非干渉規約第32条に違反することになりまっからな……。それが言いたいんやろ! タマ!?」
 シロタマは何も言わず宙を舞い、満足げに自分の定位置、天井の隅に張り付いた。

「せやから言葉だけ受け取って、プレゼントは放棄しますわ」

 なんと!!
 あのケチらハゲが勿体ないことを。まさかこれをきっかけにして、この世の終わりが訪れたりして……んなことは無いか。とりあえずそうならないことを祈って、

「しかしあの人たちが管理者の先祖だったとは……。宇宙も広いようで狭いもんだな」
 とんでもないことを暴露されたのだが、そう言われれば、もしや、と思い当たる節もある。
 初めて見るスフィアのエンジンをナナが難なく操作した理由。同じ民族が作り上げたものだ。結局似た構造になるんだ。

「じゃあ。マジで管理者の先祖だったのか……」
「もう。コマンダー。疑り深いですねぇ」

 そのうちジワジワと、なんだか頭の隅から火をつけられたように熱くなってきた。
「ちょっと待ってくれよ?」
「なんですか?」
 ナナは柔和に微笑みを返しているが、
「この話はやっぱおかしいぞ。俺たちがあの惑星に飛ばされなければ、ドゥウォーフの人たちは絶滅していたんだぜ。そしたらイクトにコンベンションセンターなど作れないだろ。俺たちはあれを探査するために向かったんだからな」

 社長も目を丸く見開き、スキンヘッドをぺしゃりとやった。
「ホンマや。コンベンションセンターが無ければワシらはドゥウォーフのコロニーへは行かへん。そうなると主宰らはスフィアのエンジンを掛けられへんし、ドロイドにも襲われて絶滅や。ほんなら管理者はおらんことになる……。ちゅうことは、コンベンションセンターは作られへん……。そやけど謎の建造物が地面から出てきたからワシらは向かった。だからドゥウォーフの人らは救助され、過去に飛んで生き延び、時が経ちコンベンションセンターができてワシらが転送され……あの人らを助けに行く…………」

 社長は思考内を巡っていた視線の焦点を元に戻すと、黒目を俺によこし、
「堂々巡りやがな」とつぶやいた。

「…………………………」
 玲子と田吾は相も変わらず沈黙だ。
「はい。おっしゃるとおりです。時間のパラドックスが起きたのです」
 ナナはほっそりとした顎を引いて、とんでもないことをさらりと言いのけた。

「おまはん……。ホンマは誰や?」

 彼女は嫣然と笑う。
「ワらしはー。F877Aでごじゃりまーす」
 言語品位を最低ランクに落とした口調は、まさしくあの時のナナだが。

「あかん。混乱する。頭が爆発しそうや」
 社長の言うとおりだ。矛盾した事実がぐるぐる回ってしまう。

「時間のパラドックスを回避する方法を教えちゃいましょうか?」
「どないしまんの?」
 口調を元に戻したナナは、天使みたいに微笑んでこう言った。
「考えないコトですよー」

「…………………………」

 長い時間、沈黙に落ちていた社長が、色濃くなった目を見開いた。
「せやな。考えても結論は出ん。時空理論に疎いワシらには答えられへん難問や。話題を変えまっせ。ほんで、ワシらはこれからどないしたらええねん。イクトは寄らんでエエんか?」

「いいえ。お見せしたいモノがありますので、寄っていただきます」
「何や? コンベンションセンターは辞退させてもろたで?」

 社長は高揚した顔をついともたげて唾を飛ばす。
「そうか! 管理者か? 管理者が待っとんねんな!?」
「人とは言っていませんよ」
 ナナは笑みを消すことも無く黒髪を振ったのだ。

 もったいぶりやがって、こんにゃろ。



 謎を含んで、小一時間が経った。

《イクトの例の場所に到着しましたが……。何もありません》

 喉の奥に異物感のある機長からの報告に続いて、パーサーからも、
《タイムスタンプがおかしいんです》

「何がどうおかしいんや。アルトオーネの標準電波はリピーターを通して受信できとるやろ? あそうか。通信リピーターは今田の乗ってきた小型艇やゆうてましたな。ほな故障しとんやろ。アイツの船や、たいしたことないデ」

「あ、しー。しー。聞こえるダよ」

《……誰だい! アタシをバカにすんのは?》

「ほら来た。今田の船は地獄耳なんダすよ」
「ほう。えらい人間臭いAIが積み込まれてまんねんな」

《なんだ、舞黒屋の旦那かい……。それで? ウチのごくつぶしは無事かい? 子供が腹を空かせて、泣いてしょうがないんだ》

「なんや。奥さんかいな。え? 子供? 腹をすかせるって、そんな小さい子がおったんか……。あの年でたいへんやな」

「違うダ。宇宙船のコンピューターらしいんダけど、なぜかそう言う設定に勝手に切り替わっていくらしいダ」
「アイツの作る人工知能らしいな。ほんま」

《そんなことよりも旦那。2年も連絡一つよこさないって、いったいどうなってんだい! どこで油を売ってたんだろうね。こっちは燃料ケチって、ここでじっと耐え忍んできたんだよ。まったくあのキリギリスはこんな長い間あいだ、どこをほっつき歩いてんだい?》

 キリギリスって、言い得て妙だぜ。

「なに言うてまんねん。数日や。2年て何やねん……。なあ?」
 社長は俺たちに同意を求めて首を傾けるが、
「一日の長さがでたらめだったから正確には言えないけどさ。長く見積もったって一週間は経ってないよな」
 こっちも同じ気分さ。玲子にも同意を求め、彼女の返事も同じさ。
「そうね。そんなものだわ」

「おまはん。システムチェックしていみい。時刻設定が狂ってまっせ」

《なに言ってんだい。ろくでなしでもアタシの亭主さ。一日たりとも忘れたことは無いよ。いいかいその耳の穴かっぽじってよくお聞き……》

「ガラの悪いAIやな。ほんま」

 船の人工知能はしゃがれた声で、はっきりと言い切った。
《2年と18日と5時間さな》

「2年と18日!!」

《それで亭主は無事なのかい?》

「……あ? ああぁ。ちょっと怪我したんやけど、ひとまず無事や。ちゃんとした医療機関に送り届けまっさかいに安心してや」

《ならいいんだけど。ほんとにナシのつぶてなんだから。ま、亭主元気で留守がいいって言うからさ》

 社長の驚きが薄れることは無い。
「これは……。どういうことや?」

『おそらく、超新星爆発の爆縮時に光速に迫る速度で爆心地に引き寄せられたことによる時間の圧縮です』

「あの時でっか? 一瞬で数十万キロメートル移動しましたからな。……あそこでワシらも圧縮を受けたんや」
「それって。どういうことですか?」
 不安に揺れる玲子の瞳に答える。
「俺たちには数日だったけど、アルトオーネでは2年も経過していたことになるんだ」
「じゃ、じゃあ。あたしが予約していた駅前のレストランは?」
「無断キャンセルだろね」
「え~~。叱られるじゃない」
「知らねえよ。だったら過去にでも飛んで電話だけでも入れて来いよ」

「ワタシが電話しておきましょうか?」
 とおかしなことを言うナナを無視して、社長は何かを思い出したように通信機のマイクに飛びついた。

「機長! コンベンションセンターが無いって、ほんまかいな?」

《はい。見当たりません。代わりに小さな建造物があります。スクリーンに出しますよ》

 漆黒の宇宙空間を映していたスクリーンに、見慣れたイクトの地表が映った。
 尖った岩山が空を突くようにそびえ立った中にある空虚な白い地面。見覚えがある。
「ほんまや。あの平地から水色の塔が出とったんやで」
 社長に言われなくても、俺だって忘れもしない。あの上を歩き回っていたのだ。

「ほんで、あれでっか?」
 小さな物体が描いた黒い影が一本、白い平面に直線を引いていた。

 グイッとズームアップされたが、小さくて何だかよく解らない。
「しゃあない。目視距離まで近づいてその辺に着陸しなはれ」

 社長の指示で、一度、銀龍は上昇。素早い動きで白い広場にふんわりと着地した。着陸脚を出して静かに下りたのだが、重力の弱い衛星である。細かな砂塵が舞い上がりカメラの視界を遮った。

「石碑やろか?」
 ほぼ真空の地表では風など吹かない。砂煙が静まるのを待つしかなかった。

「何ダすかな?」
 そいつはカメラの中央で黒々とした姿を現していたが、細部までは見て取れない。
「コンベンションセンターの一部よ」
 言われたらそう見える。地面から突っ立っている姿は、そのミニチュア版だといっても過言ではなかった。

「ナナ。おまはんの故郷が無くなっとるがな」
 彼女は楽しげに。
「だって。社長さんが進呈を拒否するのは過去の史実ですから、とうの昔にコンベンションセンターは姿を消しています」

 まーた、意味不明のことをほざきやがって。
「ワシが断ったんはさっきのことや」
「あれ? そうでしたっけ? ここら辺は時間の流れが複雑で……」
 何かごまかした気配が漂うが──。

 ほどなくして、濁った湖底が澄んでくるように、映像がハッキリとしてきた。
「なんやこれっ!」
 それはあきらかに石碑で、そこにはこう書かれていた。

『銀龍遭難の碑』

「誰が遭難したんでっか?」
「銀龍って書かれてるダ」
「ワシらはここにおるがな……。あっ!」
 石碑の右横に、くっきりとした文字で書かれた日付。俺たちが認知する数値が刻まれていた。しかもご丁寧にクルー全員の名前も彫られていて、最後に藩主の名前で締めくくられていた。

 何とも言い難い複雑な気分だった。

「今田のAIがゆうてたとおりや。ヤバいで、おい。どないする? マジでワシら2年間行方知らずやったんや。えらいこっちゃデ」

 玲子はポカンとしてあたふたする社長を見つめ、ナナは豊潤そうな笑みをたたえて言う。
「よかったですね、レイコさん。これで過去に戻ってレストランに電話を入れなくても済みますよ。なにしろキャンセルの理由が遭難ですから。お店の人も咎めないでしょう?」

「そんな問題じゃねえ──!」

 思わず叫んだ。そして頭が真っ白になった。
「これだと……。浦乃島太郎じゃねえか」
 ちなみにアルトオーネのおとぎ話でそういうのがあるんだ。よその星の話なんかしてねえからな。

「帰ったら大騒ぎダすよ」
「会社が潰れてたらどないしたらええねん」
 あの会社は、あんたがいないほうがうまく回るんだよ。それよかもっと大問題があるだろ。

「藩主に何て言い訳するんっすか?」
「あ……。ほんまや。ど、どないしよ。コンベンションセンターは無くなっとるし」
 社長は言葉を探して狼狽うろたえた。

「どうする? 逃げるか?」
「な……何で逃げなあかんねん。アホか!」
 ハゲオヤジはテカった頭を持ち上げ、毅然と胸を反らした後、
「パーサー。その辺の砂をかき集めなはれ! 持ち帰りまっせ」

《砂なんかどうするんですか?》

 と訊き返すのは当たり前だ。だがハゲはエライ勢いで息巻いた。
「アホーっ! 手ぶらで帰ることはできひんやろ。何でもエエから持ち帰って銭に替えまんね。遭難したことでチャラにされてたまるかいな」

 すげぇぜ、ケチらっハゲ!
 ぜってえタダでは起きないんだ。

「あの。社長さん。ワタシはこれで帰るところが無くなっちゃって……」
 さも困った風に顔をしかめるが、ナナの目は笑っている。
「おまはんは裕輔とコマンダー契約をした特殊危険課の人間や。玲子と裕輔に任せまんがな。会社で好きにしたらエエ」

 ナナを連れ帰るという意見に反論は無い。むしろそうしてやりたい。

「コンベンションセンターでバイトするよりましやろ。その代わりサボることは許しまへんからな」
「それって。社員にして頂けるということですか?」
「せや。最初は研修からや。上手いこと行ったら秘書課に転属させてあげますからな。玲子の部下なら問題ないやろ」

「やたっ!」
 ぴょんと飛び上がるナナを同時に見遣る俺と玲子。
 互いに視線を交わし、うなずき合い。
「よし。これで正式にお前は特殊危険課の一員だ。おめでとう」
「ちょっとぉ。それは上司であるあたしの言葉でしょ。どきなさい」

 玲子は俺を押しやり、ナナの肩に両手を添えて言う。
「ナナ……。本日付であなたを特殊危険課の正規メンバーとして受け入れます。どんな危険に直面しても怯まないと誓いなさい」
「それに関しては絶対的に自信があります。だってワタシはアンドロイドですから」

「あかんで、ナナ。アンドロイドということは会社の連中や世間には内緒や。ええか、厳命しますデ。そんなことがバレてみぃ。大騒ぎになるからな」

 オーバーテクノロジーのアンドロイドが、社内をうろつくほうがマズくないだろうかとは思うが、
「逆に、この子がアンドロイドだと言っても誰も信じないだろうな」
「裕輔の言うとおりやけどな。用心に越したことは無い。この子は謎の建造物から持ち出した唯一の宝や。藩主の科学チームに引き渡す気は無い。特殊危険課のホープやで。みんなで守ったらなあかん」

 いろいろな欲望が渦巻く気配も窺えるが、確かに馬鹿正直に報告すればナナは研究材料にされちまう。

 誰しも異論はない。というよりも、すでに仲間みたいなもんだ。
「それじゃあ、あたしの家に下宿すればいいわ。部屋もいっぱい余ってるからさ」
 いっぱいって……。俺のマンションなんか、ひと部屋も余ってねえぜ。

「そこまで甘えさせるものなんやし、気も使うやろ。それなら会社の寮がええ。そのほうが気兼ね無しや」
「それがいいぜ。女子寮なら警備も万全だ。あ……必要ないだろうけど。でも意外と太っ腹っすね、社長?」
「おまはんらな。ワシのことをケチやとかゆうとるけど……」
 ハゲが抜けてるぜ。
「ハゲてなんかないデ!」

「じ……地獄耳め」

「ワシはな。ケチとちゃう。倹約家っちゅうねん。ほんでな面倒見もエエんや」
 と言ってから、玲子と俺を見据えて問題発言をぶっ放した。

「おまはんらの仲人もしたるからな。いつでも報告すんねやで」

「んがっ!」
 なんちゅうこと言うんだ、このハゲオヤジ。
 一瞬でユデダコみたいに真っ赤になった玲子が、ぷいとあらぬ方向へ首を捻った。

 あり?
 強く否定しないんだ。
 ……複雑な気分だった。

「ののかちゃんが正式に仲間になるダな。これで魔法を教えてもえるダ」
 いい年こいて、魔法からは抜け出せないアホウなのだ。

「ナナ……?」
「あ、はい」
 セミロングで艶美な黒髪をふありとなびかせた肩に、シロタマが舞い降りた。
「ナナ。これからもこのバカどもを頼むでシね」
「バカはお前じゃねえか。さっきだってドアツードア転送ができなくて慌てたくせによ! いくら知識が詰まっていても咄嗟のときに体が動かないヤツは、使えないバカって言うんだ」
「ふんだっ。脳ミソが空っぽで体だけが元気な真正バカのくせチて」

「ぬぁんだとっ!!」

「うっさーーーい! せっかくナナの新たな門出やちゅうのに、おまはんらのいがみ合いで潰しなはんな!」

「でもユースケが……」
「ユウスケも、エロスケもないデ!」
 おいおい。ムチャクチャ言うな。

「ほんで。ナナは初めてのアルトオーネや。この子の世話は誰がしまんのや? コマンダーか? 特殊危険課の部長はんか?」

 それなら───。
「俺が……」「あたしが……」

「なんだよ、玲子。真似すんのか?」
「あなたがしゃしゃり出る必要は無いでしょ」
「俺はコマンダーだ。しゃしゃり出て当然だろう」
「なんですって!」

「うっさい! ケンカするならワシが預かるで」

 えっ?

「「二人で面倒みます!!」」

 ていうか────。
 同時に発したこの言葉が、過去から未来を巻き込む大きな騒動に膨れ上がるとは、この時の俺たちに知る由もない。