【星屑の囁きみたいに些細な出来事】 作:雲黒斎草菜(利用規約


この物語はフィクションです。実在のよく似たタイトルの作品・土地・人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。

『星屑の囁きみたいに些細な出来事』【第一章:旅の途中】 作:雲黒斎草菜
2016年 12月21日(水)

 既視感


 指令室に戻ると、パーサーが拘束を解けと目で訴えていたので、ギャレーからくすねてきた調理用ナイフをチラつかせ、
「いいな。おかしな行動をとるとこのトンスケの命は無いぞ。この場で晩飯のトンカツにしてしまうからな」
 と告げながら解放してやると、
「船内は火気厳禁だ」と返してきた。
 こいつには比喩表現を理解するという能力は無いのか。脳の一部分が欠損しておるぞ。

「なんでもいい。オマエはハゲたちのマーカーを探したまえ。私は電磁パルスの分析をする」
「電磁パルス?」
「ああ。文明的な建造物がまったく無いのに、あり得ないほどの人工的な電磁波が地上から放出しておるのだ」

 すぐにパーサーは私の横から分析装置を起動した。
「パルス幅はまちまちだが、何らかの周期がある。人工的でなければ、これほどの数はあり得ない。今田の主張どおり、不気味な感じのする惑星だ」

 手際よくデータの分析を終え、
「それより懸念するのは太陽のほうだ。超新星爆発の兆候はまだ無いのか? 素人目からでもヤバそうだぞ」
 不安を滲ませた白い顔でスクリーンに映る赤黒い太陽を見た。

「ふむ。ゲイツがオマエを手放さないのが解るな。理論的で、かつ的確な質問だ」
 何をやるでもなく、ぼんやりスクリーンを凝視しているトンスケとはえらい違いだ。

「超新星爆発の兆候はガンマ線の量が急速に高まる。この太陽の大きさからすると確実に爆発を引き起こすし、その瞬間はもう迫っておるな」

「さっきから言ってる超新星爆発ってなんダす?」
「おいおい。とんでもない質問するトンスケだな。よくそんなことでここのクルーだと自負できるな」
「自負なんかしてないだ。でもフィギュアのモデラーだ、となら言い切ってもいいダ」
「モデラーとは何だ?」
「へ? 知らないのダか?」
 どうも、こいつとは会話が続かないな。BMI接続にでもせんと理解できん。
「フィギュアとかモデラーとはどういう意味だ。説明してみろ」
「フィギュアーって言うのは……」



「はぁ────」
 くだらん。何の利益も得んかった。
 トンスケから不毛な説明を受けているあいだに、パーサーはひと仕事済ましておった。

「ガンマ線の量を自動計測できるようにしておいた。他にやることは?」
「さすがに手際の良い奴だな。よし次はハイパートランスポーターの充電を急げ。ガンマ線バーストが起きたらもう引き戻れないぞ。あと、ニュートリノバーストが臨海点だと肝に命じておけ、数秒から数ミリ秒で衝撃波が襲うからな」

「最低でも3光年は移動しないとまずいな」
「うむ。言うとおりだ」
 こいつは使える男だ。秘書二号に格上げしてやろう。

「なんか動いてるダよ」
「なんかとは何だ。どう動いておる?」
「知らないダよ」
「な…………」
 呆れて物も言えん。ブタは秘書クビだ。

「オマエの報告からは、何も伝わってこんな。私のアイ子でももう少しマシなことを言うぞ。口は悪いがな」
「さっきから、アイ子って誰ダす?」
「今田の奥さんらしい」って、パーサー。
「誰がだ! アイ子は私の船の愛称だ」
「身籠もってるらしい」
「聞いていないのか、パーサー! 船だと言っておろうが」

「あ、ほら。また動いたダ」
「オマエもだ。人の話を聞け!」
「いや。黒い草の下で光が時々反射するんダすよ」
「私には何も見えんが?」
「あ、またダ。黒い草、木ダかな? その下に何か居るんダすよ」
「オマエ、目がいいんだな。私にはよく見えんぞ」
「田吾くんの目はクルーの中で玲子くんに次いでいい。彼が何か居ると言ったんなら、きっと何か潜んでいる」
 とパーサーが言い、ブタが胸を張る。
「んダすよ。フィギュア製作で鍛えた視力ダす。見間違いってことはないっすヨ」

 そんなもの、視力が悪くなることがあっても、良くなどなるか!

「ズームアップしてみる」
 手元のパネルを操作し終え、パーサーは船内無線のボタンを叩いた。
「機長! 今の位置でホバリング頼む」
 操縦席まで指示を飛ばす。頼もしいではないか秘書二号くん。

 銀龍の空中停止はどの機よりすばらしく安定感がある。これもグラビトンリアクターと呼ばれる重力相殺装置が優れているからだ。ほんと、こういうものにはマジで糸目を付けんからな、あのハゲオヤジは。

「あ……こ、これは…………」
 猛烈な既視感を覚えて、ぞぞぞと寒気が走った。なぜならスクリーンに映し出された景色に見覚えがあるのだ。

 ダルマ型をした黒色の物体が黒々とした丸い葉に覆われた森の中でぎっしりと並んで蠢く景色。
 幾度となく見た夢と同じ光景だった。

 それだけではない。この後──。
「昆虫ダスか?」
 と田吾が言い、次にパーサーがこう言うはずだ。

「何だろう。甲虫類か? 硬質な感じだな」

 次々と甦る記憶。
「夢のとおりだ」
 落ち着けない不安感に苛まれた。
 なぜなら、この後、大きな衝撃音が轟き、機体が不気味に揺れるんだ。

 ガンッ!!

「ぐわぁぁぁ。な、なんだす!」
 音に怯えて頓狂な声を出す田吾。

 私には分かる。今のは黒い連中からの攻撃なのだ。この一連の流れは、あの監獄の中で何度も見た夢の通りだ。

 なぜこんな夢を……。どういう意味があるのだ?

《下から攻撃を受けました。いったん退避します》
 思考を巡らそうとしたが、機長からの連絡で粉砕させられた。

 言うが早いか銀龍は大空へ舞い上がった。その機敏な動きは賞賛すべきだ。
「さすがダすな、元戦闘機乗りは反射的に動くんだスよ」
 会話みたいな田吾ののんびりしたセリフも、
「機長、被害は?」
 緊迫するパーサーのセリフも私の記憶どおりで、この後、機長はこう報告する。

 大丈夫。電磁シールドのパワー100パーセント…………。

《大丈夫です。電磁シールドのパワー100パーセント。機体は無傷です》
 そして今度は私のセリフだ。

「ひとまずほっとしたな」

 一字一句まったく同じだが、声の主が誰であるかなどは、今の今まで不明だった。まさかこの連中だったとは。この現象はいったい何だ?

 私の見た夢は正夢なのか?
 予知夢──?
 バカな! あり得ん! あり得ん。

 思案に暮れる場合ではない。司令室は切迫した空気に包まれていた。
「攻撃って。なぜだ。敵対行為と取られる行動はしていないぞ!」
 興奮気味にパーサーが喚き、
「昆虫が撃ってきたんダすか?」
「んなわけが無かろう! 今のはパワーレーザーだ。あれは陸上格闘用の有人機動兵器、あるいは……」

「あるいは?」

「あるいは、殺人アンドロイドだ!」
「う、ウソだぁ。ものすごい数がいたダヨ。そんな中に社長たちは?」
「ああ。オマエの言うとおりだ。いくらマーカーを探しても見つからないはずだ」
「早計過ぎる! 簡単に答えを出すな!」
 偉ぶって憤然とするのは、もちろんこの色男だ。
「機長。もう少し詳しく調べたい。もう一度、戻れないか?」
「それを決めるのはオマエじゃない。今指揮を取っているのはこの私なのだ!」

 パーサーは、ぎりっと歯を噛み締める音が聞こえそうなほど食い縛った形相で私を睨んでから、急激に表情を緩め、
「頼む。もう少し捜索させてほしい」
「誰も打ち切るとは言っておらん。私もレイコくんにはぜひ生きていて欲しいと願う一人だ」
「オラもだ。裕輔はどうでもいいけど、社長には生きていて欲しいダ」
「ほう。オマエは意外とまともだな」
「まだ、給料日前ダすから。今いなくなると困るっす。『ののか』ちゃんのグッズを予約してあるんダよ」

「…………………………」

 ───ともかく。

《どうします? 敵の攻撃をかわして飛ぶのはワタシの得意中の得意ですから平気ですよ》

 催促にも似た機長の言葉に躊躇する。このような現場感は苦手である。私は常に個人プレイを行う一匹狼なのだ。
「慣性ダンプナーを最大にするなら許可する」と機長には応え、
「それからパーサー。こういう場面はオマエのほうが慣れておるだろ。任せるから好きにしたまえ」

「ありがたい……」

 精悍な面をしたハンサム野郎は通信マイクに飛びつき、
「──機長。目視距離まで攻撃を避けながら近づいてくれ! ワタシはビデオ撮影と各種観測を試みる」

《了解!》

 グイッとスクリーンの映像が傾いたかと思うと、
「な、な、なんとっ!」
 重力相殺装置と慣性ダンプナーを使用するとこんなことができるのか、と唸らせるアクロバティックな飛行に切り替わり、私は本気で胆を潰した。

 ついでなので、何度も出てくる慣性ダンプナーの説明を加えておこう。
 例えば時速100キロメートルで移動する物体を瞬間停止させたとしたらどうなるか。
 考えるまでも無いだろ。普通はその物体に加速度とは反対方向へ猛烈な力が掛かる。これを慣性力と言うんだ。満員電車が急ブレーキを掛けた状況を想像してみろ。えらいことになるだろ。だが、このシステムは慣性力を打ち消すことができる。

 クソ生意気にそういう装置がこの船に備わっているのだ。だから機長は平気で無茶な飛行をするのだが、
「ば……バカなことをするな!」
 叫ばずにいられなかった。

 大きな円周状に飛行していた銀龍の巨体を機長は垂直に立てたのだ。
 水平飛行で機体の腹を曝け出せば大きな標的になる。それを防ぐために縦にして標的となる面積を最小限にしたのだが、重力相殺装置をどう操作すれば水平に飛んでいた状態を維持して、機体を縦にできるのか、私には理解にも及ばん。通常の航空機には取れない飛行姿勢だ。船首が空を仰ぎ、船尾が地面にだ。その状態で巨大な円周を描くのだが、こんなのあり得んぞ。

 もちろんよい子のみんなは真似をしてはいかん。外周に向かって強い重力が掛かり乗員はぺしゃんこになるからな。だが銀龍の慣性ダンプナーがそれを打ち消す。しかも機長は、螺旋状に飛行させていた銀龍の上下を反転させるという、もう説明不可能な飛行をさせて見せた。

 それはまるでつむじ風に巻き込まれた枯れ葉とでも言うか、予測不能な動きに転じた銀龍へと、地上から白光のビームが連射されるが、的外れにも程遠い場所へとレーザービームを誘い込んでいた。かと思うといきなりの空中停止。ビームは完全に弄ばれ、あらぬ方向を貫いて行った。

 機体がどのような姿勢を取ろうが重力は床を差しており、室内は静穏なのだが、猛烈なめまいが襲った。
「き、気分が悪い」
「め、目が回るダ」
 攻撃を仕掛けたほうだけでなく、こちらにまでダメージを与えてどうする。と言ってやりたい。誰もが船酔いを起こしていたのだ。

 さすがのパーサーも片手で目頭を押さえて、コンソールパネルにしがみ付いておった。
「機長もういいよ。あらかたの映像は撮影できたし、分析データも十分そろった。安全な空域まで、そっと引き上げてくれ」

《承知の助っ!》
 元戦闘機乗りは逃げ足も速い。大きな翼をぶわぁさりと広げたオオワシが風に乗ったかのように、銀龍は成層圏まで一気に高度を上げた。


 十数分後。
 船酔い現象は一過性のもので、すぐに収まったのだが、なぜだか私は落ち着けなかった。
 言っておくが、今度は恐怖からではないし、焦燥感からでもない。
 この予知夢、いや既視感と言っておこう。科学者として正夢などあり得ないのだが。ここまで一致すると、この後が気になって仕方が無い。

 だいたい、夢は記憶の羅列なのだ。初めてだと思うのは単に忘れていただけで、何かのお告げみたいに感じたとしても気のせいだ。偶発的に物語風に成り立っただけのこと。自己満足と共に驚いているに過ぎん。人に話してみろ。大笑いされる。辻褄が合っていないからだ。

 印象深く忘れることができないような類(たぐ)いは、時間を掛けてさらにストーリーとして練りあげる癖が人間にはあるからだ。意識してではなく、無意識に辻褄の合った話へとすり替えてしまうのだ。それが夢のお告げだと言われるもの。つまりただのフィクションにすぎん。

 これほどまで冷静に分析できる私が落ち着かないのは、どの段階で起きるのかは想定できないが、まだ展開されていないストーリーがもうひとつ記憶にあるからだ。ここまでの流れはすべて間違いなく記憶のとおり。となると次のイベントも必ず起きるであろう。だがそれがいつなのか──。

 あぁ。気になるぞ。

「どうしたダ?」
 急に黙り込んでしまった私が気がかりになったのか、田吾が顔を覗き込んで来た。
「いや。何でもない。それよりオマエ、夢は見るか?」
「見るダヨ。『ののか』ちゃんの夢」

「…………………………」
 聞くんじゃなかった。

 ブタが見る夢など、この際どうでもよい。
 はっきり断言してやろう──私の記憶、これは夢ではない。そして私はパラノイア患者でもない。
 この記憶は異物の存在である。誰かの手によって、私の脳内に刷り込まれたのだ。

 鮮明に、しかも詳細にだ。夢のように辻褄が合わず、漠然としたところが無い。かつ自分の作りだした妄想でもない。私が、わずかに誇大的表現をするところは認めよう。しかしそれはそれに値する頭脳を持ち合わせておるのだから誇大でも何でもない。いわゆる事実である。

 この現象をひと言で言うと、マインドコントロールだ。

 誰に──?
 もちろんそれができるのは、BMI接続された先、W3C……か。
「では何のために?」
 つい声に出していた。

「何だか様子がおかしいが、大丈夫か?」
 パーサーまでもが不安げに私を覗きこんでいた。銀龍のクルーはお人好しだというのが判明したな。タイラントと化した私を心配するとはな。

「いや。先ほどの光景があまりに不気味でな。ちょっと引いただけだ」
「そうか。誰しも同じだな。それなら気分直しにこの映像を見てくれ」
 パーサーは部屋の中央に設置された大型のビューワーを指差した。このスクリーンに映し出されるのは船外の景色だけではない。先ほど機長がアクロバティックな飛行をして撮影してくれた最接近映像だった。

「ほぉう。よく撮れていたな」
 と言って顔を出したのは機長だ。細面で痩せこけたひょろ長い男が、この銀龍をまるで自分の手足同様に操縦していたのだ。

「操縦席を離れて大丈夫なんダすか?」
 相変わらずブタは無学だ。本当に無線技士の試験を通ったのか?

「オートパイロットで、今はホバリング中さ。それにアタッチメントはここにあるよ」
 ほとんどゲーム機の操作パッドといえる代物で、離れたところから機体を操縦する装置だ。

「リモコンだスか」
 コイツの頭の中では、宇宙船の操縦系統が家電扱いにカテゴライズされているようだ。呆れた大雑把な脳ミソだな。

 脱力めいた溜め息を吐き、視線はビューワーの中を注視する。
「甲虫のたぐいではないな」
 私の問い掛けに、全員がうなずいた。群れを成して行進する習性は昆虫類でよく目にするが、パワーレーザーを撃ち込んでくる昆虫など、いくら宇宙が広いからと言って、あり得ない。

「材質まではよく解らないが、分析データから察すると人工的な物質で出来ている……。つまりロボットかその類だろうな」
 パーサーの付け足した説明に耳を傾けながら、もう一度映像に注目する。

 黒光りしたダルマ風のボディにぎくしゃくとぎこちなく前進する姿は、あまり出来が良いとは言えないが、人の手によって作られた物体であることは間違いないのだが、問題はその数だ。

「黒い植物の下一面に潜んでんじゃないか?」と機長が言い出し。
「この黒いのは木ダか? 草ダか?」
「生体反応は植物だが、呈色がおかしい」
「黒色っす」
「たぶん光合成をしない植物だ」
「植物なのにダか?」
「あの太陽を思い出してみろ」と私が言い。
「ガンマ線の量が半端無い。計測数値は致死量を超えている」とはパーサーだ。

「この植物がこの惑星で生き残った最後の生物であろうな」
「誰もいない惑星で、あのロボット軍団はどこへ向かってんだろ? 全部が同じ方向を目指してるな」
 機長が整然と並んだ大軍団の行列を指差すが、答えられる疑問ではない。

「この惑星は本当に無人なのか? これだけの数、何のために作ったんだろ?」
「致死量超えの放射線だ。おそらく知的生命体は滅んだと言ってもいいのではないかな」
「ではこれだけの数のロボット。どこから生まれてくるんだ?」
 パーサーの投げかけた疑問には応えられる。

「自己増殖機能があるのだ」

「自己増殖?」
「自ら仲間を拵えていく機能だ。恒星間航行をする宇宙船では、乗務員の寿命以上に航行期間がある場合において、自己修復、あるいは一定数までは自己増殖を許可して、航行の手助けをさせることもある」

「作った生命体は絶滅して、残されたロボットが暴走しているということか」
 パーサーは理解力がある。

「これだけのガンマ線のシャワーを浴びるのだ。プロセッサーのどこかにホールが空いても致し方ないだろう」
 少しの間を持って、我々の会話は向かうべきところへと行き着いた。
「社長や裕輔はどうなったんダす?」

「…………………………」

 当然だが、司令室は沈黙した。
 誰もが答えることができる。だが誰も答えられない。なぜなら撮影された映像はまさにゲイツたちが転送されたポイントなのだ。この状態では生存の確率が極めて低い。答えはおのずと決まる。

 その時である。
「────っ!」
 突然、赤色灯が点滅した。

 一拍遅れて、警報も鳴り響き、ブタオヤジが慌てふためく。

「な、な、な、何だスかぁ!」

 機長は船内各所の映像を一斉にビューワーへ掻き集めて分割表示。厳しい目で警戒し、パーサーは操作パネルへ飛びつくと素早くスキャン。
「無許可の転送シーケンスが始まっている!」
 青白い顔をもたげて叫んだ。

「む、む、む、無許可って、何だスかぁ!」

 うるさいな。このブタオヤジ。
「無許可と言うんだから、誰かが断りも無しに乗り込んで来るのだ!」
 私が怒鳴りつけ、パーサーも続く。
「……しかも転送先は、」
 彼の説明は必要無かった。

 司令室の白い壁から少し離れた場所に緑色の光りが広がりだした。初めは一本のラインのようで、それが楕円になり、左右に広がる。田吾がデカイ口を開けるのと同期してまぶしい閃光がほとばしり、人型になって実体化。

「ありゃりゃりゃ? ここはどこですかぁ?」

 あり得ない光景に、全員の動きが停止、そのまま膠着した。
 だが私だけは愕然として青ざめたのである。

 これだ───っ!!
 先ほど説明した既視感の続きだ。
 ここで展開されるのか!

 驚天動地の心境とは、まさに今だ。震える指先で指し示し、
「お、オマエは誰だ!」
 私の刷り込まれた記憶によると、この問い掛けに相手は『神』だと答えるはずだ。

「あ、はーい。わラしわぁ……えっとぉ。んとぉ……。ぁは。わラしはカミサマです」


 記憶違いが一つあったことを告白しなければならない。
 こんなバカみたいな奴ではなかった。



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