【星屑の囁きみたいに些細な出来事】 作:雲黒斎草菜(利用規約


この物語はフィクションです。実在のよく似たタイトルの作品・土地・人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。

『星屑の囁きみたいに些細な出来事』【第一章:旅の途中】 作:雲黒斎草菜
2016年 12月18日(日)

 世紀末オンナは田んぼで踊る(前半)


「ソイやぁぁぁぁーっ!」
 俺の視界に玲子の横っ飛びが映り、回顧から冷めたことを知らされる。

 新たに突進して来たドロイドの頭部が木っ端微塵にふっ飛び、破片が遠くまで散乱した。
「むぅ……」
 相も変わらずパワーフルなヤツだぜ。
「───どっ、ぐわぁおぅ!」
 いきなり何の断りも無く横からナナに足蹴にされ、すっ飛んだ。

 次の刹那、パワーレーザーの熱い一閃が誰もいなくなった地面を裂いた。
 何しやがんだ、と言おうとした口をぽかんと開け、レーザーが開けた黒い穴から立ち昇る薄煙を凝視する。つい今しがたまで立っていた場所だ。
 俺さまを蹴り倒した張本人の足からゆっくりと視線をもたげる。白くて柔らかげで、朗らかな顔がそこにあった。

「ドロイドに指名手配されますからねー。コマンダーは」
「ニコニコして嫌な言い方すんなよ」
「ほら来ますよ!」
 バシュッ、と鋭く乾いた音がしてナナの開いた手から煙が上がった。
 俺の額の真ん前だ。狙いの正確さよりも、撃ってくる気配がまるで無いのだ。

「何なんだこいつら?」
 固唾を飲むしかあるまい。

 今回の接近戦で再確認できた。やっぱりパワーレーザーや索敵ビームは不格好な赤い目玉から発射されるのではなく、肩に取り付けられた短銃みたいな突起部から放たれている。銃弾が飛び出すのではないので、レーザー照射器とでも呼ぶのがふさわしい。

「裕輔が来てくれてよかったわ」
 と言う玲子の甘い声に急いで起き上がる。

「そうか。俺もたまには役に立つだろ?」
「立つ、立つ。だってみんながあなたを狙ってくれるからこっちは楽勝なのよ。もっとその辺でウロウロして囮(おとり)になってちょうだい」
「ば……、よかねえ。どわぁぁ!」
 またもやナナに体当たりされて左に吹っ飛ぶ。まるで彼女に弄ばれるオモチャみたいだが、ドロイドはレーザーの照準を俺に合わせることに夢中のようで、ジュジュの母親から興味を失っている反面。マジで指名手配されてんだと改めて思う。

 俺へ照射ポインターを合わせようと、こっちへ体を旋回させたドロイドの腕の付け根を狙って、玲子が蹴りあげる。
「せぇいっ!」
 ショックで腕が根元から折れて地面に転がった。
 主宰が言うように確かにボディが華奢だ。なので弱点をカバーすべく連中は殺人兵器を身に着けたんだ。

「今よ。逃げて!」
 玲子の指示で、ドロイドから解放された女性が立ち上がったが、
「まだ。うちの子が!」
「あたしたちに任せて、あなたは逃げなさい」
「嫌です。私もジュジュを取り戻します」
 母親の毅然とした態度に、ため息混じりでうなずいた玲子はドロイドに向き直った。

「ほら。ほら。ダルマさん。こっちよ」
 何体かのドロイドが放つ索敵ビームが一斉に玲子の胸辺りを狙った。

 ようやく暴れ馬の存在に気付いた一体が向きを変えるや否や、肩の突起物が発光。それは俺に撃ち込んでくる殺人レベルのパワーレーザーの閃光だ。
 しかし玲子は俊敏に横っ飛びでかわした。地面の上で体操選手顔負けの側方転回を見せた後、連射してくる白いビームをことごとく後方倒立回転跳びで逃げ切った。

 まるで舞うようにパワーレーザーの連射を回避するその姿の美しいこと。結っていたリボンが解け、長い黒髪が見事な扇型を描いて広がった。

「すげえ運動神経してやがる。うぎゃぁ!」
 呆気にとられていた俺はナナにひっくり返されて、変な悲鳴を上げる。

「あたしを狙うなんて、百年早いのよ!」
 と玲子はドロイドに息巻き。

「痛ってぇ───な。くそっ!」
 やり場のない悔しさを地面へ拳を打ちつけることで発散する俺。
 自分の身を自分で守ることすらできないでいる焦燥感に浸りつつ、
「お前、人間か?」と訊きたくもなる。

「あなたが鈍いだけ」

「どこがー?」
「戦うときは相手の目を見るの」
「戦ったことねえし……。こいつら目ってどこにあるんだ?」
 自分の額をつんつんと指し示し、
「おでこのとこ。赤い目玉がちらっと強く光るから、ほら来るわ」
「うぉっと」
 玲子の言う通りだ。撃ち込む寸前、明るさが増した。だが身体が動かん。今だってナナに引っ張られたから逃げ切れたが。
「お前、あんなのに反応できんの?」
「うん」
 こともなげに答える整った横顔を思わず見遣る。
 スポーツ馬鹿め。どんな神経してんだ。

 玲子はナナに言う。
「いい? あなたも体が軽いみたいだから、手足を使って避けなさい。いちいちまともに相手してたら傷だらけになるわ」
 あいつには付いて行けん。やっぱアンドロイドは玲子のほうだろ?
 今度、ヤツの体を念入りに調べてみる必要があるな。殺されるだろうけど。

「よく見てなさい。相手の隙を狙うのよ!」
「…………………………」
 言葉なんて無いね。

 体操競技に格闘技を混ぜた不思議な動きは、俺だけでなくドロイドも戸惑いを隠せない様子。パワーレーザーの焦点が定まらず四苦八苦している。人間で言えばキョロつくとでも言うか、

『このアンドロイドは動体予測機能が不完全です』
 と声を落としてきた野郎を睨み上げる。
「どこ行ってた! ご主人様が危機だと言うのに」

『ユースケとは主従関係を結んだ覚えがありません』

「わぁおーう」
 綺麗に伸びた脚が、俺の目の前でドロイドの首を蹴り飛ばした。
 玲子は体勢を瞬時に変え、後方へ長い脚を突き上げる。
「そいやぁ!」
 ボディのど真ん中に蹴りを喰らったドロイドが後ろに尻餅をついた。その頭を踏み潰し、玲子は数メートル先を逃げて行くドロイドの肢に飛びつく。

 ドーーン。

 片手でジュジュを高々と上げて、戦利品を掲げた海賊みたいなダルマ野郎は体勢を崩して前屈みに崩れた。反動で捕まえていた幼女を土の上に解放。
「今よ──っ!」玲子が叫び、
「ジュジュ!」
 泣き叫ぶ女の子に飛びつく母親。その背後から二体のドロイドが両手を広げて襲いかかる、際どい寸前。ナナの右足が宙を回転した。踵(かかと)が一体の首筋に直撃。肩から首が切り離され炎上。

「お母ちゃまはジュジュちゃんを連れて常にワタシの後ろに回ってくらさい」
 と告げつつ、ナナの片足は遅れて襲ってきた一体の顔面を蹴り倒し、体勢を変えて横に飛び。片手で地面を突き上げ、後ろから襲ってきたドロイドの腕をすり抜け、母子を狙って発射された複数のビームを片手と片足で弾き飛ばす、ってまるでアクロバットだ。

 俺は驚愕する。連続技で攻撃を捌き、最後はバック転をして自分の身と母親たちも守る俊敏な動き。もう玲子の動きを学習し終えたというのか?
「お。お前ら、すげえな」
 二人の玲子がそこにいた───そう見えたんだからしょうがない。

『管理者製のアンドロイドは動体予測機能が完璧ですから』

「訊いてもねえのに、こんな時に自慢すんなよ、タマ……」
『自慢ではありません。事実を述べているにすぎません』

 ここでタマと言い争いをする時間は無い。やっぱ俺だって何かすべきなのだ。
「タマっ! 俺でも何かできないか? お前はアドバイザーなんだろ?」

『ドロイドの弱点は肩のレーザー照射エミッターです。取りつけ部分の剛性がありません』

「それが簡単にできるならとっくにやってらー。近づく前に撃ち抜かれちまうんだよ!」
 俺の情けない声に、玲子は「なに言ってんのよ」と憤慨し、
「よーく考えてみなさい。相手はあたしたちだけを狙ってんのよ。光ると同時に逃げたらいいだけじゃない」

「簡単に言ってくれるねぇ」

 鋭い目でドロイド軍団を見据える玲子。俺も一緒に注視するが、
「来た!」
 一体の目がほんの一瞬だけ赤から白に変化。だが予想通り体がすくんで動けない。でも玲子は違う。勢いよく跳ね飛び上がり、ナナも横飛びのついでに俺を蹴っ飛ばした。

 玲子は発射してきたドロイドに狙いを定め、片足を中心に勢いよく全身を旋回。風を切った豪快な上段回し蹴りが、そいつのど真ん中に一撃を加えた。

 グボッ!
 鈍い音を上げてボディに穴が空いた。玲子のスマートな体躯(たいく)からは想像できないパワフルな攻撃だ。
「ごめんあそばせ」
 桜色の頬をほころばせ片目で瞬く玲子の前で、ドロイドは空中にハラワタをぶちまけ、後方へぶっ倒れて煙を吐いた。散乱したパーツからはバチバチと火花が飛び散り、煙が上る。

 あまりの事態に状況が把握できないでいる黒い軍団に、玲子は立ち向かい、さらに間合いを詰めた。
「さぁ。大まかなクセは把握したわ。ここからが本番よ!」

 思わずズッこける。
「ここまではリハーサルだったのかよ!」

「バカ! スケベ! ユー! スケっ!」
「なんだそりゃ」
 玲子は妙な掛け声に合わせて、蹴りとパンチを繰り出す。

 ガンッ、バンッ、ドムッ、バシュッ
 リズミカルにドロイドが砕かれ、みるみるガラクタと化していく。

「せ、く、はっ、らっ! おっ、やぁ、じーっ! それぇーい!」
 回転蹴りの気合いも混ぜてフィニッシュ。完璧にストレス解消も兼ねていた。

 俺は嘆息しつつも呆れ返る。
「お前もだいぶ溜まってんだな」
「そうよ。秘書って言う仕事はね。セクハラとの戦いなの」

「やっぱハゲたオヤジはスケベだって言うからな」
「何を言うの。誰もうちの社長とは言ってないでしょ」
「ほおぅ。お前もハゲと認めてるんだ……ギャオス!!」
 玲子に足蹴にされ、俺、吹っ飛ぶ。そこをパワーレーザーが通過。外れたレーザーは仲間を撃ち貫き、黒煙を上げてぶっ倒れた。

 地面にひっくり返って空を仰ぐ俺に、玲子はご丁寧にウインクまでかましてくれて、
「社長は人より少ないだけなのよ」

 ウソ吐け! ツルッパゲじゃねえか!

 とか言いつつも、玲子の連打のおかげで軍団が後ろに引いた。
「さぁ今のうち、ジュジュちゃんをつれて逃げて」
 娘と抱き合い茫然としていた母親へ告げる玲子。

「で、でも……」
 まだ躊躇する母親を見て、
「あなたがこの二人を村まで無事に帰しなさい」
 玲子はナナに厳命し、ナナは挙手をして答える。

「了解しました」

 ってコマンダーは俺なのに玲子の命令を聞くとは、何か腑に落ちんぞ。

「道を開けるわよ」
 逃走路に固まっていた集団に玲子自らが突っ込み、一斉に放出されたレーザーの雨を飛び込み前転で避けると、連中の懐に詰め寄り二体を撃破。隙を狙って、他の筐体を突き倒し、また蹴り上げて暴れまくる。

 正面に立ち塞ぐヤツを前蹴りで右肩から先をふっ飛ばし、素早く身体を反転させる。体勢は綺麗に旋回して、後ろ回し蹴りが後方から襲ってくるヤツの頭部をぶっ潰す。寸刻も体の動きを止めることなく、対面に構えていたドロイドの肩に飛び乗り後ろに蹴りながら前転する。

「ひぇぇ。すげえ。疲れを知らねえのかあいつ」
 援護のしようも無い圧倒的な動きに制されたのは俺だけではない。ドロイドたちも同じさ。思わず道を空けやがった。

「今だ! ナナ行け!」
 俺は叫ぶだけ。玲子のスポークスマンという役職に徹することにする。

「お母ちゃま、行きますよ。ワタシについて来てください」
 開いた退路を駆け抜けるナナたち。
 ドロイドの視線が一斉にそれを追い掛けようとした。

「ほらこっちよ。あたしを捕まえてみなさい!」
 連中を引き付けるかのような派手なアクションを見せる玲子。

「サイッ! ハーツっ!」
 強靭な腰のバネを使った二段蹴りが打ち落とされた。

 最初の前蹴りで胴体に軽くフェイント。首が後ろに下がった次の刹那、強烈な二打目の衝撃でダルマ型のボディが旋回する。両手を大きく広げて周りの仲間を巻き込んでバラバラになり、部品の塊と化していき、玲子は蹴りの反動を後方回転することで相殺。黒髪をふんわりと翻して着地した。

 俺はというと地面にひざまずいたままさ。体操選手と格闘家の生霊が憑依したような動きに見惚(みと)れていた。
「ちょっと。なに道草喰ってるのよ。あなたもナナと一緒に戻りなさいよ。まさか帰り道を忘れたの?」
「ばっきゃろー。お前をほっといて逃げ帰れるかってんだ」

「ふん。また空威張りしてるでしょ」

 あーそうさ。実は足がすくんで動けない。だがこいつと行動を共にすると、つい抗いたくなる。

「俺だって特殊危険課だ!」
 と胸を張って起き上がった田んぼの中。気付くとドロイドにぐるりと囲まれていた。あれだけ暴れまくったのにだ。退路は再び絶たれていた。
 さすがにこれはどうしたもんか。頭の中が真っ白になった。



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