【星屑の囁きみたいに些細な出来事】 作:雲黒斎草菜(利用規約


この物語はフィクションです。実在のよく似たタイトルの作品・土地・人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。

『星屑の囁きみたいに些細な出来事』 作:雲黒斎草菜
2017年 5月10日(水)

惑星シューレイとケイゾン循環環境システム


 シロタマは俺に異星人文化への非干渉規約違反を忠告しようとしたのか、それとも時間規則違反のほうだったのか……。

 こんなことを考えていたらまったく眠れなく……とかいうことも無く。ただ寒くて薄い眠りしかできないな、なんて思っていたら朝陽と共に気温が昇って、ようやく眠れるかな、と思った頃にマーラとシムのはしゃぎ声で叩き起こされた。

「なんだよ、いったい!」

 寝るのをあきらめて起き上がり、きょろきょろと辺りを探る。
 小さくなった炎の前で、ケイトもマサも丸まっていた。
 焚き火がまだ少し熾るところを察すると、律儀にもこのザリオンたちは交代で火の番をしていたようだ。

 朝活を生きがいにする玲子は、やはりもう起き出して、石碑のほうでマーラたちと何やらはしゃいでいた。



「よ。さすが野生児は朝が早いな」
「あら裕輔。珍しいじゃない、早起きね」
「当たり前だ。俺だけ半年未来から優衣に拉致られて来てんだ。グースカ寝ていられねえだろ」

 玲子は急いで振り返ると、
「ダメ。そういうことを言ったら時間規則に反するでしょ」
 しっ、と魅惑的な唇に人差し指を当て小さな声で俺を咎めた。

 正当なことを言われて反論も出来ず、言葉を探った――が、
「何やってんの?」
 当たり前の質問をした。

「どう。可愛いでしょ。長袖ワンピよ」
 シムのために大き目の布切れを使って、新しい貫頭衣を作ったらしく、それを着せている最中だ。

 半分に折った布の真ん中に穴を開け、そこに首を通させ、脇の辺りに切れ目を入れてひもで縛り、幾分長袖に近い形に手を加えていた。ファッションとはまるで言えず、荷物の梱包に近い出で立ちだが、意外にもこの子には似合っていた。

「寒さ対策だって、レイコがこしらえた」
 そう告げたのはマーラなのだが、俺に両手を広げて、愛らしい仕草で舞っていたシムが喋ったのかと錯覚しそうだった。
 シムは感想を求めるように、じっと俺を上目に見ていた。
「よく似合うよ。それより元気になってよかったな……」
 昨日の血の気の無い痛々しい少女の姿はどこにもなかった。

「その布はどうしたんだ?」
 薄いブルーの布地は真新しくこそないが、少なくとも血染めにはなっていなかった。

「アタイが取って来たの」
「取って来た?」
「アタイたちが拾ってきたゴミの中で、レイヤーたちに使えそうな物は神殿にお供えすることになってるんだ。デジラーグがその神殿なんだよ」

 ふと疑問に思った。ゴミの中には衣服だってあるはずだ。それをレイヤーたちに与えたら、もうすこし小マシな格好になるのだろうに。マーラだってそこそこ俺たちに近い服装だし。

 マーラは首を振った。
「レイヤーの人は文明の臭いのする物は絶対に貰ってくれないの。素材だけなんだ。それを自分たちで工夫するのが好きみたいよ」
 思った通りだ。劣っているのではなく、何らかの信念を持って行動するんだ。

「このワンピ、あたしがそれ風に仕立てたのよ。ほらいちおう服らしいでしょ」
 シムは自らの姿を俺に披露するみたいに、嬉しそうにもう一度舞って見せてくれた。
「なかなかよく出来てるが……」
「なによ……」
 玲子は表情を一変させた。

「いや。お前を責めてんじゃないよ。ただな。レイヤーの人らは何か考えがあって、この生活を選んでいるんだと思うんだ。だからあまり干渉するのも、どんなもんかなー、っていう意見だな」
「どういうこと?」

「シムは昨日、炎を初めて体験したろ? しかもそれを利用して暗闇を照らすことを覚えてしまったんだ。これはレイヤー人にとって良い事なのか悪い事なのか……」

 気づくとシムの手が俺の腕に絡んでいた。
「え? おいおい、俺はそんなりっぱな人間じゃないって。やめてくれよ」
 テレパスで伝わって来たのは、感謝、敬(うやま)い、とんでもなく物柔らかな素直な気持ちだった。

 レイヤー人の心の奥底にこんな従順な気持ちが満ちるなんて、こりゃあこのケイゾンが無ければ、あっという間にザリオンの思うがままにされていたハズだ。

「そうか。すごいなシムたちは」
 こっちの考えが読まれるのは確実で、慣れてくると会話をするのと何ら変わらない。ただ声ではなく意識の中で泡みたいなメッセージが湧いて来る。

「従順ではなく、信じ続けるということが言いたいのか……。そうだな。分かっちゃいるけど……難しいよな」

 さっきからシムと見つめ合って、一方的にこっちが語り続ける光景に戸惑った玲子が、俺の袖を引いた。
「何が難しいのよ?」
「レイヤー人の考え方さ。ジフカリアンとザリオンから許しを得られると信じ続けて一万何千年も経過させたんだぜ。お前なら3日で答えを出そうとするだろ?」

 玲子はにたりと笑い。
「2日ね……」
 だろうな。ザリオン人と気が合うのも、その辺りの血の気の多そうな思考に波長が一致してんだぜ、きっと。


「早いでやんすな、お二人さん」
 ようやくマサも起きだし、ケイトも長い金髪を大きく翻しつつ身づくろいを始め、片腕からシュリーンと伸ばした刀の先で、ザリオン人二人を起こしに掛かった。
「起きろ。ザレック、いつまで寝ている、マッドン」

 物騒な目覚ましだった。



 ジュラークから徒歩10分そこそこで、デジラーグに着いた。
 周囲はほぼジャングルと言ってもいい密林だが、寒冷化が進む環境に耐え切れなくなった熱帯性の植物が枯れ始めている。岩山から遠望したぐらいでは気づかなかったが、細部ではこんなにも症状が進行していたのだ。

 茂みのあいだを縫うように、ジフカリアンが歩き回って作った道が通っており、一辺800メートルの正三角形と言うのも正しく、容易にその場所に着いた。

「すげぇな……」
 そこは供え物で埋まっていた。ゴミから集めたとは言え、洗って干した布地からプラスチック、木材の板、陶器の破片。マーラの言うとおり、素材として利用できそうなものばかりで、その物の形をした物資は無い。それが丁寧に畳まれ、あるいは洗浄され積まれていた。

「ジフカリアンからレイヤーへのお供え物らしいぜ」
 マーラから聞いた話をそのまま伝えた。

「ジフカリアンとは几帳面な連中なんだな。しかも慎み深いと来ている」
「慎み深いにもほどがあるだろ」
 マサは異様に感心していたが、
「いやいや。これがジフカリアンの感謝の現れだろう。恐怖のザリオンから逃れる場所を提供してくれるというな」
「ここに来てから、ザリオンであることがますます恥ずかしくなって来たな」
 罰が悪そうにザレックが頭を掻いていた。

「これがデジラーグの石板だよ」
 シムとマーラが抱き付いた石板は、ジュラークにあった物より丸みを帯び分厚い石で正面にヌタうった文字が書かれていた。

「おお。見ろ! ザレック! マッドン! 古文書の写しのとおりだ」
 ケイトはこの場で踊り出すのではないかと思うほど興奮しており、
「 "深き緑の大地で七つの軍団は血族の竜を懲らしめる" だ」
 一気に震えた声で石板の文字を読み終え、古文書を開いているザレックに確認を求める視線を送った。

「素晴らしい、ヴォルティ」
 ザレックも文書の上を滑って行く指を追いながら、
「一字一句間違っていない……間違いなく、承諾神話は実在する」

「……ついに来たか」
 マッドンの喉が派手に鳴った。
 ケイトの肩越しに、石板をじっと覗いていたシロタマが言う。
『間違いありませんが、"懲らしめる" ではなく "退治する" のほうがより正しいです』

「何だか腹が立つな。こっちは8年もこの古代シューレイ語を研究してきたんだぞ。何様だ、オマエ?」
 宙を浮かぶ球体を睨みつけて、そう言い放つケイトへ、
「気にしないほうがいいぜ。こいつは常に上から目線なんだ。俺なんて何度切れたことか」

「ほんとよ、シロタマ。そのたんびに口を出すのはやめてちょうだい。しばらく口を慎みなさい」
 シロタマを叱咤できるのは玲子だけだ。
『…………………………』
 しかも彼女だけに従順なのも、憤りを感じる原因の一つでもある。

 ケイトは鼻にしわを寄せる程度で、受け流し、
「まぁよい。気にしないことにしよう。それよりマーラ。その石板の最上部に手を当ててくれ」
 理解不能の指示だが、マーラは素直にぴょんと飛んで石板の上に手を掛けてよじ登ると、その天辺をぺたぺたと叩いた。
「これでいいの?」
 再び地面に飛び降りて、キョトン顔で振り替えるマーラ。

「今のはどういことだい?」
 尋ねざるを得ない雰囲気が滲んでいた。

「まぁ。見ていろ。この古文書が本物であるということの最終的な証明をしてやる」
 と言い、青空を仰いだケイトは眩しげに手で額を隠した。
「先に本殿へ立ち寄るぞ」
 まるでガイドブック片手に名所を巡るかのような態度だった。

 本殿は三つの遺跡で囲まれた三角形の中心にある、と言ったシロタマの観察結果のとおり、生え茂った草を掻き分け数分でそれが姿を現した。



「おいおい。何だよ、こりゃぁ?」
 運動場のような空間を石の壁がそびえて円形に囲んでいた。進入を阻むのではなく、ちゃんと出入り口が三カ所あり、そこから中を覗く玲子。
「すごーい。声が響くわ」
 無警戒で先に飛び込んだ玲子の声が、囲まれた壁にいつまでも反響していた。

 天井は無いが中は平淡で、中心に先の尖った黒っぽい搭状の物体が突っ立っていた。その先端から少し下に赤い宝石が埋め込まれている。まさにモニュメントタワーだ。そしてそれを取り囲むように横に倒された多くの石柱。

「これは神殿と言うより円形劇場よ。この石柱はベンチね。座席よ」
 中央のアリーナに突っ立ったタワーから少し隙間を開け、そこから同心円を描いて、均等な隙間を開けて規則正しく外に広がる様子は、玲子の言うとおり観客席にも見える。同心円の座席には同じ位置に切れ目もあり、それは通路としか思えない。

「でも、何を演じるんだ?」
 反論の余地は無いが、中心部には舞台も無く、黒い塔しか見当たらない。やはりこれは何かのモニュメントだ。

 塔はコケにまみれているが、例の文字が描かれた様子はこれまでと同じだ。
 玲子はマラーたちと円の縁に沿って駆けっこの真っ最中。ほんと、元気な奴らだ。
 ケイトの行動に目を転じる。彼女は二人のザリオン人を従えてタワーの先端からゆっくりと根元までを観察していた。

 古文書を開き、しばらく交互に視線を行き来させ、
「 "三つの星がひとつになるとき光とともに試される" 」
 読みあげる声が内部で響き渡った。

「ふはははははは。すべて一致する。おい、マッドン。ザミールの石板へ行ってみろ、"地の中より湧き出るのは多くの血の痕。それはやがて朝陽を迎え加護のもとへと還る" と書かれておるはずだ」

 軽くうなずきザリオン人は走り出した。その後を玲子に命じられてシロタマも追いかける。
 空から行くシロタマが戻ってくるほうが断然早かった。

『 "地の中より湧き出るのは多くの血の痕。それはやがて朝陽を迎え加護のもとへと還る" 間違いありません』

 シロタマが放った言葉の意味を頭の中でこね回していて、ケイトの漏らした言葉を危うく聞き逃すところだった。
「いよいよ我々が世紀のイベントの主催者となる時が来た!」
「え?」
 訊き直す時間はなかった。彼女はすぐにザリオン人に命じる。
「おい、ザレック。戻ってくるマッドンと合流して、もう一度、ザミールの石板に戻り、最上部にある穴の中に手を突っ込んで来い!」

 彼女はザミールの遺跡を確認するまでも無くそう言い切り、俺は大いに眉をひそめる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。お前ら何をやろうとしてんだ。世紀のイベントって何だよ」
 こいつらは遺跡の調査をする気は無いようだ。
「正直に言えよ。お前らの目的は何だ?」

 彼女は艶やかな唇の端を持ち上げてこう言った。
「これは神話ではないと言っておろうが。手引き書だ。イベントトリガーなのだ」
「だから何が起きるんだよ?」
 興奮度は頂点に達したのだろう。俺の声は届かない。

「我々が……そうか、それで……」
 と言って、辺りを見渡した。
 何かに気づいたらしく、座席のごとく並んだ横倒しの石柱へ意識を向けて、
「我々は傍観者だ。観客に過ぎん。だからここが円形のホールなんだ」

「あんたらだけで理解するな。俺たちにも解るように説明してくれ。観客って何だ。それじゃあ、誰が役者なんだ」

 ケイトは胡乱げに俺を見た。
「お前らの連れ歩いてるその人工生命体は古代シューレイ語が読めるのだろう。すべてここらの石板に書かれておるのだぞ。なぜ何も知らないのだ?」
「う……」
 言葉に迷う。他の時間域から来た者は、その時間域の歴史に関わってはいけないという時間規則がある。玲子とシロタマは2年未来からやって来ているし、俺はさらに半年のずれがある。この説明をするだけでも時間規則違反になる。

「こいつは秘密主義で困ってんだ。溜め込んだデータは俺たちに教えようとしない。ただのデータロガーなんだ」

「何のためにデータを収集してんだか……」
 呆れたようにシロタマを見て、ケイトはふんっ、と鼻を鳴らし、
「まーよい。説明してやろう」
 艶美に煌めく瞳を戻って来たマーラに注ぎ、
「惑星ジフカの代表者……マーラ」

 そのままシムへ首を捻り、
「惑星シューレイの代表者、シム……。そして、ザレックが、ザリオンの代表者だ」
 駆け出そうとしたザリオン人を細く長い指で示してそう言った。

「ま……まさか、この三名で移住交渉を進めようってのか!」
 ムチャクチャな。
「この二人はまだ子供だぜ。それにそっちのザリオン人だってどこの誰とも知れねえ人物だ。艦隊のザグルならまだしも。星どうしの縄張り争いだ。そりゃぁ無茶な話だぜ。もっと上層部の声を聞いたほうがいい」
 マサも慌てだし、いつもより増して口数が多かった。
「マサさんの言うとおりだ。レイヤーの人らは知恵を絞って何とかする。俺たちがこんなに気安く干渉してもいいのか?」
「そうやってレイヤー人は1万年も費やしたんだ。こんな気の長い種族はいないぞ。目的を忘れてしまうほどの時間が経ってしまったんだ」

 ケイトは古文書を白い指で指し示し、
「ここまで条件が揃ったのだ。しかも環境の変化はそれを急げと言っておるだろ」
「むぅ……」何もいえなくなった。
 確かに急激な環境の変化はレイヤー人には耐え切れない。今すぐにもケイゾンを開かないと、半年と持たないかもしれないが……。1万年も続いてきた営みをここで俺たちが勝手に変えて大丈夫だろうか?

 その話は二の次にして、そんなに簡単にここが開くものなのか?
 これまでに何人のザリオンがここを開けようとしていたことか。それでもびくともしなかったフィールドなのだ。

「そう、力づくでは開かない。所定のシーケンスを経て、三者を正しく導く仲介者を入れることが条件になる。これがこの神話の最終章だ」

「仲介者って……不動産取引じゃねえっぞ。そんなことを誰が言ったんだ。レイヤー人か? この人らは自分たちの過去を忘れちまったんだぜ」
 ケイトは古文書の写しをまたもやぽんぽんと指差し、
「ここに書いてある。三人の神々がそれぞれのノードに立った時、仲介者をまじえて試されるとな。ジュラークの石板にも書かれていたろうが? 最後の部分だ」

 ジュラークの石板って……最初の遺跡にあったヤツのことだ。あの時――。
「シロタマは欠損してると言ってたぞ!」
「そんなこと知らん! コケに埋もれていたが注意して見れば読めたはずだ。観察力が足りないのではないか? それとも、それも無駄にデータを蓄積するだけの行為なのか?」

 あいつが見落とす?
 それだけはあり得ない。

「タマーっ!」
 シロタマを探す。奴は中央のアリーナにそびえ立つ塔の頂上に留まっていた。

「お前、ウソ言いやがったな。お前とカエデだけだ、ウソの吐ける機械は!」

「ウソじゃない! 情報制御でシュ!」
 ガンガンと辺りに響き渡るシロタマの声。
「お前に情報を制御されると、よけいにハラがタツんだ」
「知るとユウスケはすぐ手を出すし、必ず行動に移す! 時間規則を守れない! だからシロタマはまだまだ知ってるけど情報を制御するでシュ!」

 バカが、べらべらとゲロリやがって、
「それって、すげえ重要なことが含まれてるって、言ってんのと同じじゃないか」

『ユウスケは何も知らされず自然に動くべきです。意識すると必ず失敗します』
 報告モードが発した甲高く響き渡る声は、とても冷徹な口調だった。

「俺をバカみたいに表現するな!」

「バカじゃないか! オマエはここの歯車だということにまだ気づいていない! マーラとシムは信用してユウスケを慕ってる。それからこのザリオン人を誘い入れたのはオマエでシュ。何でここに来たか、その理由、いいかげんに気づけ!」

「おーよ。さっぱり解らないね。だいたいなー。俺はコノごたごたが済んだ未来でのんびりしていたんだ。何で半年も過去に連れて来られなきゃならんのだ」
 と言ってしまってから、慌てて自分の口を手で塞いだ。

 案の定――玲子以外の視線が全員こっちに集まっていた。
「今のはどういう意味だ?」
 ケイトの厳しい目が俺を貫いていたが、玲子はあっちを向いて救援の気配無し。
「あ? いや、何でもない言いソコ間違いだ」

「オマエの出番はまだ先でシュ。だからここはケイトに任せるでシュ」
 お前に『オマエ』『オマエ』と連呼されるほど腹が立つことはない。
 タマの野郎が時間規則を守れとか言いながら、こうやって俺を煽って矛盾した行動を取る時は、すげぇー嫌なことが起きる前触れなんだ。絶対にこいつ何か企んでいる。

 シムをじっと見てケイトは言った。
「このまま放っておくと、この子らはこの急激な環境の変化には耐えられない。我々が仲介者となってケイゾンを開けるんだ。解説書はほれ……ここにある」
 古文書をぱんっと手のひらで叩(はた)いた。
「しかし……」
 急がないといけない……それは強く感じる。これは異星への干渉ではなく救助だ。だけどそれに俺と玲子が手を出すわけにはいかない。手を出すのこの時間域のケイトたちだ。それなら時間規則には反しないとは思う。

 ケイトは躊躇する俺に向かって毅然と言った。
「だいたい我々が仲介者として認められるかどうかも定かでないのだ。萱の外、問題外、無視、ということも考えられる」

「なるほど……じゃあどういう人物が仲介者と認められるんだ?」
「そこの塔に書かれておったろうが、"光とともに試される" とな」
「試される?」

「そうだ。仲介者に適任か、たぶん進化の度合いを試されるんだ。進化とは文明だけではないはず。精神的、宗教的、社会倫理などの進化の度合いがテストされるのだろう」
 と言ってから、
「しかもワンチャンスだ。もう時間が無い。認められななければ、次に神殿が開くのは一年後だ。その時までケイゾン内部が雪に埋もれていないことを祈る」
「めっちゃくちゃ重要じゃねえか!」

 神殿を開くキーは揃っている。シム、マーラ、マッドンかザレック。
 で、仲介人の候補は、俺、マサ、玲子、ケイト。
 どいつも宇宙規模の重任をこなせるとは思えんね。やっぱここはバジル長官にでも来てもらって……。

 コケまみれのタワーの前であれこれ思案するあいだに、ケイトに行って来いと促されたザレックが、ザミールの石碑から帰って来た。

「神話のとおり、承認の穴が石板にあったのでオレが代表して手を突っ込んできたぜ」
 少し興奮した様子でオレンジの目玉を震わせていた。
「オレがザリオン代表だなんて……名誉なことだ」


 しかし何分経とうと一向に何も起きない。
「オメエほんとうにザリオン人か?」
 と馬鹿なことを言い出したのはマッドンだ。

 半笑いでそう言うが、誰がどこから見たってザリオンだ。でも痺れを切らしたマッドン。
「オレがもう一度試す」と言い残して走り去った。