【星屑の囁きみたいに些細な出来事】 作:雲黒斎草菜(利用規約


この物語はフィクションです。実在のよく似たタイトルの作品・土地・人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。

『星屑の囁きみたいに些細な出来事』 作:雲黒斎草菜
2017年 5月 5日(金)

ガナ・ザグル大佐の憂鬱


 それから数分後のこと――。

「だから何度も言わせるな。俺たちはマーラと名乗る少女に助けられてケイゾンの中にいた。しかもその命の恩人であるマーラが行方不明なんだ」

 玲子はぷいと視線を逸らし、ふんぞり返る。
「どこまで本当のことを言ってんだか。だいたい何で無線に出なかったの。ずっと叫び続けてこっちは喉が痛いわよ!」

 あのな……。
 説明するのも疲れたぜ。

「無線機が壊れていたって? あなた開発部の人間でしょ、それぐらい直せないの、バカ!!」

「まぁまぁ、アネゴ。ユウスケの旦那も無事だったんだし、アカネさんもほれ、ちょっと薄汚れちまってはいるが、怪我も無いし。よかったじゃねえか」
 一方的なキーキー声の玲子の罵声というシャワーを浴びる俺をマサが救い出してくれて、ようやく俺も落ち着くことに。
 ちょっと寝てくる、と仮眠室へ移動するヒステリ女の後ろ姿をすがめながら、優衣にもらった冷たいお茶をひと息に飲み干した。

「レイコねえさんは、心配でほとんど寝てなかったんすよ」
 と言うヤスの声に、奥から首だけ出した玲子、
「ヤス! 言葉が足りない。アカネを心配してだかんね!」
 と言い捨てて、引っ込んだ。

 やれやれ、ケイゾンの中は静かだったな。ちょっとした安らぎを感じたぜ。

「ほんとうに、ケイゾンの中に入っていたのか!」
 もう一つ、安楽とは程遠い低音のドラ声が轟く。

「何回言えばいいんだよ、ザグル。あれはケイゾンの中だった。なにしろ第八艦隊の爆撃を真上に見ていたんだ。間違いないって」
「ほんとうです、ザグルちゃん。シムちゃんも怯えちゃって。わたしは花火だと思っていたんですけどね」

 ザグルちゃん、って。

「確かに一昨晩、連中が派手に破壊行動を遂行していたのは事実だ。となるとその話、本当なのか……」

 丸太を想起する太い腕を組む勇ましい "ザグルちゃん" を眺めていると、明らかにジフバンヌとザリオンは異なる種族だと言うのが見て取れる。

「なあザグル。訊きたいことがあんだ。ジフバンヌとザリオンは同じ種族なのか? そうじゃないだろ?」
「むぅ……。何かを見て来たようだな」

 途中で口ごもったザグルに、マサも質問を重ねる。
「あのよぅ旦那。オレも訊きたいんだけど……。ジフカリアンとジフバンヌはどうなんだ? 違う種族なのか?」
 矢継ぎ早に受けた疑問だが、ザグルは即答を控えた。しばらく無言が続く。

「……………………」
 それは心の迷いだった。言うべきか言わざるべきか、憂いを含めた逡巡が1秒2秒と加算されて行く。

「……………………」
 そのうち片目しかないオレンジの眼玉が派手に揺らぎだし、やがて観念したように吐露し始めた。

「それには長い歴史があった。今ではジフバンヌもザリオンとして呼ばれておるが……元々はジフカに住んでいたジフバンヌを奴隷として惑星ザーナスに連れ帰るところから始まる。そしてザリオンの厳しい社会に適応できなかったザリオン人はジフ、ガッバンヌだ。そういう連中を蔑んでジフカリアンと呼ぶ」

「そうか……。オレはてっきり、ザリオンをトップにして、ジフカリアン、ジフバンヌていう権力序列になってんのかと思っていたぜ」とマサ。
 その言葉に俺も首肯する。実はそう思っていた。

「オレたちは狩猟民族だ。狩をして獲物を持ち帰る。強いものしか生き残れないという教育を受けている。もちろんそれが正しいと考え、力尽くで領土を奪い取って来た。それは宇宙にまで広がり、ジフカはその最初の標的となった」

 ザグルはぱたりと言葉を綴じ目をつむった。

 それから数秒後、
「……いい機会だから、オレの本音を言わせてもらおう」

 決意のこもる息を吐き、でかい口を開く。
「オレは子供の頃から常に強くなくてはいけないと言われ続け、これまで弱者を虐(しいた)げていたことは事実だ。だがその言葉はウソだと気付いた。ジフバンヌが弱いのは当たり前で、ユウスケの言うとおりザリオンとは異なる種族だ。見た目は似ているが連中は気が優しい。そんな弱い者を牛耳って何が勇者だ。これはどこかおかしい。そしてオレは目覚めのた。このままではまずいとな。だが母星の連中は見て見ぬ振りをして誰も変えようとしない」
 何とも言えない重苦しい空気が漂い、その中で暴露し続けるザグルの肩が小さくなっていく。

「ザリオンには任侠と言う文字が無(ね)えんだな」
 我慢できなくなったのか、マサが口を挟んだ。
「ニンキョウ?」
「ああ。強きをくじき、弱きを助ける……だ」
「……………………」
「あんたのはただの弱いものいじめだ。それじゃあ、何も生まれんぜ」

「――――――――」
 時間が止まったかと思うほどの静けさが襲った。

「…………ぐむぅ」
 もの凄まじいまでの形相をして喉を鳴らすザグル。喰われるかと思って、マサと二人して身を反らした。

「狩猟民族は常に強くなくてはいけない、と言うのはザリオンの思い上がりでしかない。裏を返せば、お前のいうとおりだ。弱い者いじめに過ぎん。だからみろ、この宇宙域でオレたちは孤立してしまった。危機が迫っても誰も手を差し出してはくれん」

 ザグルはぎゅっと奥歯を噛み締めていた力を緩め、
「ニンキョウか……いい言葉だな。弱い者を助け、強い奴を叩きのめし、そして己に勝ってこそ真の強者(つわもの)と言える」
 その巨体をぐばぁっと持ち上げた。
「ひぃ……」
 決然とシャトルのノーズを睨みつけるザグルの険しい面相に俺たちは首をすくめて退いた。

 いちいちビビらすな、ワニ野郎!

「この悪習を断たなければいかん。この惑星に住むザリオン人を全員引き上げさせ、母星ザーナスに残る奴隷と扱われているジフバンヌをジフカに戻し、正式なジフカリアンとして解放すべきだ」

「――ふ~ん。なかなか立派なこと言うじゃない」
 いつのまにか玲子が通路の壁にもたれかかり、腕を組んでこちらを見ていた。

「ヴォルティ、寝たのではないのか?」
 恥ずかしげにオレンジの目を伏せるザグル。

「今の言葉を実現すれば、星間協議会はあなたたちを暖かく迎い入れてくれるでしょう。がんばりなさい」
 お前、なに様?

「オレたち5つの艦隊が先陣を切って実行する。見ていてくれ、必ずをやり遂げる」
「誇りに思うわ。それでこそ特殊危険課のザリオン支部長ね」
 こいつはたぶんマジで言っているんだ。目を見りゃぁ解る。
 特殊危険課ザリオン支部設立お祝い申し上げます。課長さんよ。
「やれやれだぜ」
 俺は肩を落として渋面を曝け出し、ザグルは苦笑いを隠す。

「ところでそのシムという娘(むすめ)だが……」
「シムって誰ヨ?」と俺。

「コマンダー、本当に忘れたのですか? お世話になったシムちゃんですよ。レイヤーのシムちゃん」
「痛いって、人の頭を気安く叩くなアカネ。思い出したって……。シムだろ。おおシムな」

「その娘もジフバンヌなのか?」
「いや、違う。この子はまったく異なった種族でマーラはレイヤーと呼んでいた」

「ほんとうかしら?」
 拳から突き出した親指で茜を指しつつ。訝る玲子に言ってやる。
「あのな。ケイゾンてとこは特殊な領域なんだ。何しろコンピューター機器は勝手に止まっちまうし、俺の記憶もあやふやになるんだ」

『ジフカリアンには影響が出ないようです』
 ぽつりとシロタマの報告モード。

「あれ? ほんとだ。なぜだ?」

『おそらく、レイヤーとジフカリアンとの間には何らかの協定、あるいは協力関係があると思われます』

「裕輔の発言は虚偽の臭いがするから信用できないわ。アカネ。ケイゾンってどんなとこなの?」
「あ、はい。ケイゾンは皆さんが安心して住めるリゾート地になって循環してるんです」

「うーん。こっちもいまいちピンとこないわね」
 後部座席に深く腰掛け、長くて綺麗な脚線美を大きく組んで俺たちの目を泳がせる玲子、お前は陳列罪だ。

「二人ともまったく使えないわね」
 上司紛いの言葉遣いに、むっと来る。実際上司なんだから仕方がないが、トゲのある言い方をされるとこっちもカチンと来て、脳ミソがフル回転。
「リゾート地って言ってるけど、それはアカネには説明できない状態だったんだ」
「どういうことよ?」
 玲子とザグルが身を乗り出した。

「ケイゾン内はビオトープになってんだ」
「ビオトープ?」
「そう、ケイゾンの中はレイヤーが生き長らえて行けるように、循環する生態系で成り立っていて、そのために外部から隔離されてるんだ」

「循環……?」

「そうさ。レイヤーの出した排せつ物やゴミが小動物や植物の栄養素となり、大きく育ち、その恩恵を再びレイヤーが受けるんだ。森は小動物やレイヤーの出した呼気を浄化して大気に戻している。つまり循環環境さ。それをあのフィールドが包み込んで外部からの影響を遮断してんだ。マーラたちジフカリアンはそのおすそ分けをもらって細々と暮らすだけで、あの領域はレイヤーのためにある空間さ」

「レイヤーと言うのは……まさか」
 ザグルの喉がまたもやグルグルと鳴っていた。

「ああ。俺には結論が出せないが、昔ジフカにいた先住民の子孫じゃないかと思う」
「その証拠は? 連中は何万年も戻って来てないんだぞ」
「証拠なんかないさ。でもシムに会えば分かる。まったく違う種族だ。先住民は戻って来ていないんじゃなくて、最初からどこにも行ってないんじゃないかな?」

「むぉぉぉぉぉ」

「はい、そこまで!」
 ついに唸りだしたザグルの目の前で、手をパンパンと叩いて玲子が立ち上がり、
「そんな難しい話は後でしましょう。動くほうが先よ。特殊危険課は行動あるのみ」
 こいつらしい。さっさと一蹴しやがった。

 そんなことより、
「お前、寝不足じゃないのかよ?」
「5分寝たら十分よ。ユイ! まずはそのマーラちゃんの行方(ゆくえ)を探ってくれる? シムっていう子に約束したんでしょ、裕輔?」
「そうさ。絶対に探して連れて帰るって。あそこの集団の中ではマーラは女神みたいな存在なんだ」
「特殊危険課がウソツキになることだけは避けたいわ。ユイ、すぐ行って。まずはマーラ救出作戦よ!」
「何でそんなに嬉しそうなんだ?」
 鼻先でオモチャを突き出された小ネコみたいに、玲子の目の奥には生気がみなぎっていた。

「了解しました。一昨日(おととい)の早朝へ戻ってみます。レストランの前で待っていれば、」
 言葉途中でユイは閃光に包まれた。
 思わずはっとした。すっかり慣れ切っていたが、マサとヤスの目前だというのを忘れていた。

 今の跳躍現象は確実に見られたな。さーて何て説明するか……だな。
 恐るおそるマサを注視する。

「「……………………」」

 案の定、二人とも目を点にして消えた場所を睨んでいた。だが、そのど真ん中で再び閃光と共に優衣が実体化した。

 ヤスは据えていた視線をさっと船首へ逃がすと溜め息を吐き、マサの視線はそのままで、黙ってお茶入りのボトルを傾けていた。
 互いに納得のいく仮説を頭の中で展開しているようだが、ヤクザ仕様の脳ミソではなかなか収まりどころが無いようだ。
 特に取り乱すところも無いし、俺も説明に困るので、しばらく様子を見ることにする。

 虹色の光が消えた優衣に飛びつく玲子。
「どうだったの?」
「一昨日の朝、レストランに入る直前に第八艦隊の連中に捕まってしまいました。どうやらケイゾンから出てきた瞬間を見られていたようで……そのまま連れ去られましたが、戦艦の位置を把握しています。一度報告してから行こうと、戻って来たところです」

「やばいな……」
 ザグルが唸った。
「あれから調べたんだが、連中はケイゾンの中に大麻やケシの畑を作るつもりだ。出入り口を知っているとなると、どんな手を使っても吐かす気だぞ」
 ザグルの言葉はいちいち重くて怖い。

「それは大丈夫さ。物理的な出入り口は無い」
「どういう意味だ?」
 迫るザグル――怖ぇーよ。

「俺とアカネもだが、とても通路を通って出て来たとは思えないし、マーラだけはシムのテレポート能力で運んでもらうようだ。だからどこに入口があるとか、教えることはできないんだ」
「では。命の危険がある。用が無いとなったら連中のことだ、何をするか知れない」

「でも相手は第八艦隊だろ?」
 ザグルの顔を窺う。
「ちょうどいいではないか。全艦召集を掛けて、」
「だめっ! そんなことしたら大騒ぎになる。暴れたい気持ちは解るけど、ここは我慢して」
 いつもの俺のセリフじゃネエか。

 玲子は、さっと操縦席に首を捻り、
「ヤス、離陸準備よ。それからザグルは連邦艦の死角を教えて」
 首を戻す玲子へと、ザグルはさっと顔色を変えて強張った。
「そんなもの、おいそれと言えるか!」

「ふ~ん。まぁいいわ」
 玲子は鼻を鳴らすと、天井付近に視線を巡らせ、
「シロタマ。ザリオン艦の死角を教えてちょうだい」

『左右に分岐した船体の右側、十字の付け根から35メートルの位置にある第二砲台裏側にスキャンセンサーの盲点があります』

「な、なんと! なぜお前がそれを知ってるんだ! 連邦軍の最重要極秘情報だぞ!」

『船尾先端格納庫の扉にもセンサーの死角がありますが、あまりにピンポイントでしたので、今回は推奨しません。しかし最も決定的な弱点が3か所あります。そこを同時に突かれると、簡単に構造維持を崩されます』

「何だと! どこだ。教えてくれ」
 慌てるザグルに、
「教えないよーだ」
 シロタマはそう言い残して奥の部屋へ飛んで行ってしまった。

「これは報告しなければならん。構造維持に盲点があるなど、戦艦として致命的だ。おいタマ野郎!」
 ザグルも追いかけようとするが、このシャトルはザリオンにとって小さすぎる。後部の部屋は肩がつかえて進入すらできない。手だけを伸ばして、
「こ、こら! タマ、教えるんだ!」

 玲子はくすっと笑い飛ばし、
「ユースケ。そこへ行って」

「え? 俺?」

 玲子は口の動きだけで、バーカと俺に告げ、
「シャトル・ユースケ。大至急、第八艦隊の第二砲台裏側へ飛んでちょうだい。遮蔽モード、忘れないでね。せっかくシロタマが作ってくれたんだから使ってよね」

『あいよー。ほら相棒、行くぜ、いつまで考え事してんだ。小さいことこだわるんじゃねえ』
「いや、ユイねえさんが、さっき光って消えたんだって……」

『いいか相棒。目の錯覚てのは恥じることはねえ。恥ずかしいのはな。目の前に広がる無限の宇宙と対面して指をくわえて見ていることだ! さぁ。行くぜ!』
「そ……そうだよな。人が光ったり消えたりするわけないもんな。よし。行くか!」

 ははは。シャトルに悟らされてらゃ、世話ねえや。それより遮蔽モードって何だ?

 俺がケイゾンに入っていた2日間のあいだに、シロタマはシャトルを好きなように改造していた。遮蔽モードにフルガードディフレクターとかいう船体構造強化アルゴリズムだとか、何だそりゃ?
 説明は無理だぜ。何しろ誰もその使い道が解からないのだ。


「あにい。発進するぜ!!」
「お、おう!」
 ようやくマサは覚醒し、ヤスも意気揚々と声を張り上げる。
「ユースケ、全速前進。コース、第八艦隊だ!」
 シャトル・ユースケの動きは常に滑らか、かつ迅速だ。見事な飛行で俺たちを宇宙へと運んでくれた。ただ、その掛け声だけはいただけない。

『おらぁ! 第八一家へ殴り込みだぁ! 首根っこ洗って待っとれぇやー!』



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



「とりあえず気づかれずに、ここまで来やしたが、どうするんです?」
 と助手席、ならぬ操縦補助席から振り返るマサ。

 シャトル・ユースケのキャノピーの先端、まさに鼻の先と言っていい。その場所にザリオンの戦艦の隔壁が迫っていた。その距離1メートル弱。ほとんど壁に張り付いたゴキブリ状態だった。

『ユウスケの旦那ぁ。ゴキブリって言うな! オレっちのことはスズメバチと呼んでくれ。ナリは小せぇが喰らわす一撃は痛ぇえぜ』
「ガラの悪い蜂(はち)だな」

「おー。クリティカルヒットって言うヤツだな。カッコいいな」
 と嬉しそうにヤスが明るい声を上げ、マサが首をかしげる。
「何だよ、そのクリスタルキットって?」

 ガラス細工になってんぜ。

「蜂の一刺しってヤツでさ。小さいけど熊だって逃げるんすよ」
「おぉ。このシャトルにぴったりだ。いいな。それをオレたちニュータイプ極道のキャッチフレーズにしよう。クリスタルキットのマサとヤスか……。いい響きじゃねえか」

 ガラス屋でもやればいいんだ。

「じゃあ。頼むわね、ユイ」
「あ、わたしも行きたいでーす」
「買い物に行くんじゃないんだぞ」
 今まで静かにしていたのに、こいうことになると顔を出そうとするのが茜だ。

「よし。全員でカチコムぜ! ヤス、マイトの準備だ!」
「どれ、オレの助けもいるだろう。相手はザリオンだぞ」
「もぉ。どいつもこいつも血の気の多い野郎どもね!」
 ぐいっと腕組みをして立ち上がったのは、特殊危険課のアネゴさ。
 お前が最も血の気が多いんだ。

 勝利への雄たけびを上げるかと思いきや。
「行くのはユイだけよ。この子の特殊技能は誰にも真似できない。あたしたちが行けば足手まといになるの」
「どいうことだ、アネゴ?」

「あなたたちのカチコミって力技(ちからわざ)でしょ。これからは無駄な動きはしないの。ニュータイプはショートカット戦法よ。ユイしかできない方法。絶対に誰も真似ができないわ」
 それだったら、戦法と言わずに技と言え。

「いい? 動く時は動く。動かない時は山の如しよ。絶対に動かない」
 それでお前は仕事中に動かないんだな。

「ユイねえさんだけが行くんで?」
「そうよ」
 もう我慢できん。
「それじゃぁ、いつものお前と同じじゃないか。何でもかんでもユイまかせで。今回は俺も手伝う」

「よーし。殴り込みはこっちの専門だ。やっぱオレも行くぜ」

 ぐいっと俺の前に出るマサに玲子が喰い付く。
「あのね。ユイは時間を移動できる、」
「おわぁぁぁぁあぁー! 俺、行かない。ユイにまかそう」
 急いで玲子とマサを引き離し、それ以上つまらないことを言い出すのを阻止。

「何だよびっくりしたな、ユウスケの旦那。何で行かないんだよ? 根性の無い」
「い、いや。根性とかじゃない。ここはユイに任せたほうがいい。人命救助はユイの専門分野だった。忘れてたよ」

「ユイねえさんは霊能力者だろ。どこにいるか察知できても、やっぱこいう力仕事はオレたち『男』の出番だろ?」
 手をブンブン振ってマサに言う。
「それだめ~。玲子への禁句。はいだめ~。マサさん即死」
 首のところで手を水平に切って見せる。

「はっははは。ちげえねえ。禁句だった。おお怖い……」
 半分冗談のような本気のような。中途半端な笑みを浮かべて、マサは玲子をチラ見しつつ引き下がった。

 玲子の言うとおりだ。優衣の時間跳躍を利用すれば、ザリオンがいかに物々しい警備を張ろうと救助は簡単さ。マーラが連中に捕まる前の時間に飛んで、かどわかされないように時空修正をしてしまえばいいんだ。

「それはできません。正しい歴史の流れに沿った方法で行きます」
 と言うや否や、閃光に包まれた。が、次の刹那、間髪入れずマーラを抱きかかえた優衣が実体化した。

「……………………」

 レストランのウエイトレス姿を知っているので全員が顔見知りなんだけど、その姿を見て唖然とするのは当然だ。時間にして、瞬く間も無かったからだ。

 顎の骨が外れてしまったみたいにばっかりと開け広げていたヤスが、驚愕の状況に震え、
「どういうことです? もう救助してきたんすか?」
 もうムチャクチャだ。言い訳のしようもない。しかもあまりに短い時間のことで救助されたほうもその自覚がない。

 しばらくポカンとしていたが、「マーラちゃん!」と叫ぶ茜の声で、疲れた表情をさっと消し去り、俺の姿を見つけるなり、飛びついて来た。
「神様! アカネ! よかった。ずっとお祈りしていたんだ。やっぱり助けてくれたんだ」

「ちょ、ちょっとレイコ姐さん。どういうことです? ぜんぜん緊迫感がねえんですけど。カチコミってもっと緊張するもんすよ。これだと魔法みたいだ」
 ヤスは納得しきれない面立ちだ。でもマサは嘆息と共に眩しげに優衣の姿を凝視し、そして言ってくれた。
「ヤス……。魔法なんてモンは無(ね)え。あるのは現実だけだ」
 お、イイこと言うね。

「姐さんは霊能力者だけでなく、特殊機動部隊の出身者だったということだ。いや、ほんとすげえお人だぜ」

「あがっ」
 肩透かしを食らった。
 ま、いっか。
 この人は勝手に都合の良い方向へ解釈をしてくれるので、とても助かる。

 だいたい時間と空間を跳躍できる者にとって、侵入できないところは無いのだ。
 どんなに厳重な警備をしたところで、時間の流れを細工されるんだから常人には太刀打ちできない。それが可能なのは、デバッガーか、メッセンジャーぐらいなもんだ。

 優衣は正攻法で行って来た、みたいなことを説明した。
「拘束室の見張りが交代する時間に合わせて救助してきました。たぶんしばらく気づかないと思います。そのあいだに早くここを離れましょう」

 マサは横目でチラチラ茜を窺いながら、
「ユイねえさん、モノは相談なんだが……。ピンクダイヤと呼ばれる石コロがありやしてね。それをちょいと救助して……あ」
 途中であらぬ方向へ顔を逸らした。
「……何でも無いっす」
 怖い目の玲子に黙らされていたことを伝えておこう。




「シャトル・ユースケ。帰還してちょうだい。場所はケイゾンの近くがいいわ」

『がってんだ、アネゴ!』
「遮蔽モードよ。忘れないでね」

『あいよー』

 何だよ。全部玲子が仕切っていたら、ヤスの出る幕が無いじゃないか。
 操縦士であるヤスは、茜に抱き付いているマーラに意識を奪われていた。

 ところで……。
 弛緩した空気に誰も気づかなかったが、遮蔽モードでザリオン艦から離れたのは俺たちだけではなかったのだ。

 俺さまとしたことが、マジ、不覚だったぜ。


 またか――、って言うな!