【星屑の囁きみたいに些細な出来事】 作:雲黒斎草菜(利用規約


この物語はフィクションです。実在のよく似たタイトルの作品・土地・人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。

『星屑の囁きみたいに些細な出来事』 作:雲黒斎草菜
2017年 4月21日(金)

藤原一家 対 ザリオン連合艦隊


 ミリタリーぽい服装のワニが5匹、テーブルをぐるりと囲んでいた。
 どいつも厳つい格好だった。ごわごわとした革製の肩当てから金属製の尖った物が突き出ていたり、腰には銃弾がずらっと並んだベルトを巻きつけていたり、まさに戦場から帰って来たばかりと言わんばかりのナリなのだが、それが余計にウソっぽく見える。今時そんな奴らはいないだろ。少なくともアルトオーネでは。

 さっきはちょっと取り乱してしまったが、
「ありえんよな」
 もう一度、部屋の様子を窺う。
 オレンジ色の眼玉が9個蠢いていた。一匹だけどういうわけか片方の目玉が落ちて無い。
「落ちて……無い?」
 しばし黙考――。

「あ、そうか。なるほどな。そういうことか……」
 握りこぶしを片手の平でポンとする。

 着グルミな。

「はっはっはっ。ユウスケの旦那。よくできてんじゃねえか。商店街の販促用かー」
 もうひとつおまけに言っておこう。
「なるほどな。祭りも近いし」

「あにぃぃ……何をさっきから納得してるんすか?」
 ようやく意識を戻したヤスが、オレの肩口から恐々と顔を出した。

「お、ヤスか。オメエも気の弱ぇヤツだ。こんな着グルミのワニを見て気を失うったぁ、末代までの恥だな。ま、黙っててやるけどな」
「ま、マジっすか。着ぐるみっすか? よくできてやすね」
「ああ。それもあの5人は姐御の家来だということだ。となると、つまり……」
「つまり?」
「藤原一家の誰かが入ってんだよ」
「マジっすか。誰っす?」
「まぁ。キムにい、ってことはないな。あの人はそんなことするガラじゃない。あの体格だから、一人はたぶんサブローだ。もう一人は、ヨシ兄貴だな……」

「なるほどぉ……さすがは、あにいだ」

「な、オレの盗撮力もすげえだろ?」
「何か撮ったんすか?」
「は?」
「……あ、洞察(どうさつ)ね。ですね。あにいって勘だけは鋭いっすもんね」
「『だけ』 は必要ねえ。それからな。これは祭りの準備だ」
「祭り?」

「そうさ。祭りのオベントさ」
「ハイキングでやすか?」

「何でハイキングに出かけなきゃならんのだ?」
「いえ、お弁当って言うから……」

「それはオベントウだろ。オレが言ってるのは、オベントだ」
「あー。イベントね」
「そうサプライトって言うヤツさ」
「サプライズね」
「おぅ、それだ。それを姐御が企てていて、オレたちを驚かそうとしてんだ」

「それで着グルミのワニがいるんですかい?」
「着グルミとアイトルは祭りに必要不可欠だろ」
「アイドルね」
「うるせえなー、ヤス。なんだよさっきから手取り足取り……」
「揚げ足取りね」


「ちょっとー。さっきから外で何ブツブツ言ってんの? 早く入ってよ。艦長たちに紹介するからさ」
 と姐御がそう言い、ユイねえさんがオレの胸に小さなバッジを付けてくれた。サラサラの黒髪がオレの鼻の先をなびいて通る時の、
「ふはぁ。いい匂いっすね。どこで買ったシャンプーっすか」
「駅前のコウセイ薬局で買いました」
「コウセイ……。ああぁ。ヤマサキんちの。あそこオレのダチがやってる薬局なんすよ。これからも御贔屓(ごひいき)にたのんます。で、これ何?」
 ユイねえさんはヤスの襟にも付けながら、
「翻訳器です。言葉の弊害が解消されるんですよ」
「はぁ? 連中の言葉なら解かりやすぜ。同じ商店街の仲間だし、なあヤス?」
「へい。知り合いです」
 ユイねえさんは柔和な笑みを浮かべて背を向けると、オレたちに部屋へ入れと誘導した。

「なるどな。地方出身者もいるから分からん言葉を発するかもっていう配慮か。さすが舞黒屋。仕事が丁寧だぜ」

 ワニの正体が分かっちまったらもう怖いことは無い。商店街を盛り上げるのは、ある意味オレたちの仕事だ。商店街あっての藤原一家だもんな。神社の祭りはオレたちの祭りでもある。

 ユイねえさんと姐御の後ろを付いて部屋に入った。

「みんな、待たせたわね」
 ワニの雑談が途切れ、頭が一斉にこちらへと旋回。

 へっ。ヨシ兄貴の野郎、よく似合ってんな。
 それにしても出来のいい着グルミだ。牙も眼も、どうだあのシワ。本物そっくりだぜ。

 オレはヨシ兄貴の隣の椅子を引くと、どがっと座って、肩に手をまわした。
「兄貴。でっけー着グルミだな。硬い甲羅が痛そうだ。暑くないのか?」
 ヨシ兄貴は機嫌が悪いのか、オレの手を払いよけやがった。

「まずいよ、マサさん」
「いいって。オレと兄貴の仲だ」
 オレの脇腹を後ろから突っついてきたユウスケさんの腕を振り払いながら、
「何だよー、兄貴。暑くてイライラしてんのか?」
 オレはしつこく首っ玉に抱きつき、
「氷でも貰ってきてやろうか? ヨシあにいぃ」

「暑苦しいっ!」
 ガバッと立ち上がったその体のでっかいこと。
 天井を突き破る勢いでそびえると、ぐわばっっと口を裂いた。牙がずらりと並んだ真っ赤な口が耳近くまで裂け、糸を引いた粘り気のある唾液が床に滴り落ちた。

「すっげぇー! よくできてんなぁ、兄貴。これ高かったんだろ? オレたちの商店街儲かってやがるなぁ。結構結構。景気がいいことは良いことだ。これで藤原一家も安泰だぜ」

「あ、あにい。やっぱこれ本物のワニですぜ」
 オレの後ろにへばり付いてきたヤスに振り返る。
「バカなこと言うな。こんなでかいワニがいるか。これは商店街の催しに使う着グルミだ」

「さっきから、誰なんだこいつ!」
 ドラをぶっ叩いたみたいな音がした。声じゃねぇ。音だ。爆音だ。声だけでオレの髪の毛がなびいたぜ。

 ヨシ兄貴のばかでかい声にオレは驚きを隠せなかった。
「相変わらずでっけー声だなー」
 藤原一家で最も声が大きい人だが、こんな声が出るんだ。


 今度は着グルミの中でも珍しい片目のワニに飛びつく。
「おーい、サブロー。オレだマサだ。暑いのにご苦労だな。それより中から外がよく見えないんだろ。おーい。見えるかサブロー」
 手で口を開けて中を覗き込む。喉の奥まで細かく作られており、サブローの姿は無かった。
 それにしても最高のディティールが施されていて、超絶の出来映えだ。どこの業者を使ったんだろ。まんま特撮映画に使えるぜ。

「あにい……ようすがおかしいですぜ。ほら、ユウスケさんも舞黒屋のオヤジも、部屋の隅に逃げて行きやしたぜ」
「はぁ? 何言ってんだ、ヤス。アネゴとユイねえさんはニコニコしてるじゃないか」

「ヴォルティ・ザガ! 説明を求める。誰だ、この失敬な奴は!」
 サブローの野郎、まだ続ける気かよ。そんな濁声(ダミごえ)出して、後で喉が枯れても知らねえぜ。
「うるさい! これは地声だ。ほっとけ!」
「ほらほらサブロー。着グルミが喋ったらダメだろ。ガキ共に馬鹿にされっぞ」
「おふざけもいい加減にしないと、ワシらもザリオンじゃ。ヴォルティ・ザガの前とて我慢がならんこともある」
 またまた白髪混じりのワニだ。こっちもよくできているが、白髪のワニってどーよ。あははは。
「オッサンはだーれだ? 八百屋のケンだな。このやろう。ヴォルティ・ザガって何だよ。お前のガキが持ってる戦隊モノのオモチャか?」

「あ、あにい。本物だ。背中を見て。チャックがねえっす」

「そのスジの者だと言うから、もう少し骨太の奴かと思っておったぞ」
 八百屋のケンが、にやりとして半身を反らしたところで、やっと異変に気づいた。

 どぁぁぁぁ!
 何だこいつ。肩の筋肉がモリモリしてんじゃねえか。マジでこれ着グルミじゃねえのか?

「な、なぁ。ヤス。こんな生々しい着グルミってありか? これってマジか」
 ゴツゴツの鱗だらけの肌が、さっきより赤味を帯びてきていた。

「ワシらはザリオン連邦連合軍の者だ。お主はどこの所属であるかな?」
 こいつらの鱗(うろこ)モノホンだ。不気味な蠕動(ぜんどう)が伝わって来た。

「ダッフ・ガッ・バンヌ! ふんっ!」
 隣で背中を反らしていた片目のワニが、鷲(わし)みたいな目でオレを睨み上げ、鼻から息を吹きかけてきた。

 ワニのクセに鷲の眼とは、ふてえ野郎だ。
「今、何て言ったんだ?」

『ザリオン語で、"愚かなヤツ"、"バカなヤツ" と言う意味です』

 どっはぁぁぁーー。
 さっきから大声を上げ続けて、過呼吸でめまいがしそうだ。

「こ、今度は何だ?」
「あ、あにい。テニスボールが喋ってますぜ」
「て、テニスボールは水には浮かぶが、宙には浮かばん」

「ちょっとあんたたち、うるさいよ。静かになさい」
 って姐御は言うが、これが静かにできるかってんだ。何なんだここは?

 イッツ、ワンダーランドか?
 ネズミの漫画の世界なのか?

「マサ! うるさいっ!」

「…………………………」
 耳の奥が痛くなるほどの静寂が浸透した。


「この子は。シロタマと言って……対ヒューマノイド……えっと何だっけ。ま、あたしの友達ね」
「今、何か誤魔化しましたね、アネゴ」
「説明が難しいの。あたしの友達だと思いなさい。わかった?」
「へ、へい」
 何か言われても到底理解できそうもないので、それでいい。

「で、こちらさんたちは?」
「えっと。ザリオン星の人たちで」

「ヴォルティ・ザガ。それは間違っておる。我々はザリオンと言う種族だが、ターミニオン星系にある惑星ザーナスが母星じゃ。どうも情報が交錯しておるのぉ。これからは未開の星域の種族にも存在を伝えなきゃならんな」

 八百屋のケンにしては貫禄があり過ぎる。誰だこいつ。
「それとヴォルティ・ザガ様にも、もちっとザリオンのことを勉強してもらわねはなりませんな」
 白髪混じりのワニが、意味ありげなことをつぶやきつつ、厳つい革の手袋をゆっくりと脱いだ。

 そして――。
「ほれ。ザグル。お主から順に自己紹介しろ。順番からするとお主が先頭じゃろ? 早くしろ、あとがつかえておる」
 と、片目の野郎を駆り立てるので、
「ちょーっと待ってくれ」
 オレは両手を広げてストップをかけた。

「シロくん。ちょっと来てくれたまえ」
 指先をクイクイっと。
「ヴォルティ・ザガってどういう意味?」

『ヴォルティは、"従う"あるいは、"崇拝"と訳せます。そしてザガは "人" と言う意味です』

「回りくどいね、きみ。分かったか、ヤス?」
 ヤツは四角い頭を左右に振るものの、
「家来って意味っすかね」
「ふむ。理解できんことも無いが……うわわわ」

 痺れを切らしたのだろう。片目のワニがずいっと、オレの前に出た。
「オレが最初にこの方をヴォルティ・ザガと認めたザリオン連邦軍第五艦隊の艦長、ガナ・ザグル大佐だっ!」
 自慢げにレイコ姐さんを見遣ってから、ぐぉぉぉぉんとそびえやがった。どっしゃー。背ぇ高けぇぇぇ。

 ちょっと待て、こいつが胸張っただけで、天井を突き破る勢いでそびえ立ったぞ。そんじゃ、あそこで座っているだけで頭を天井に擦るヤツが、直立したらどうなるんだ。

 息を飲む前で、その隣のヤツが直立した。
「オレはジム・ジェスダ大佐、連邦連合軍第一艦隊の艦長だ」
 迫りくる天井の手前で中腰になり突き破るのを阻止した。

「でっけぇぇ!」
 ワニが直立するたびに、部屋の隅でハゲオヤジが悲鳴を上げるその気持ちがよく理解できる。

 そのまた隣にドガーンとそびえた白髪混じりのワニが言う。
「ワシが第二艦隊の艦長、ズダフ・バジルじゃ。この中では最も年寄りだ。お手柔らかに頼む」
「何をぬかしやがる。あんたが暴れるたびにこっちはビビってんだ。なにしろザリオン連邦連合軍艦隊司令長官だからな」
 と言ったのは片目のワニ、ザグルだ。ぎろりとそれを睨む眼光はもの凄まじい。一つ眼とは思えぬ眼力だ。
 というより、連邦連合軍艦隊司令長官って、なんだそりゃぁ?

 続いてもう一匹が立った。天井にワニの雁首がずらりと並ぶ。
「第四艦隊の艦長、ワグ・アジルマ大佐だ。一つ異星人に教えといてやろう。ザリオンに年は関係ない。腕っ節の強さだけだ」
 野郎は突き出た顎をレイコ姐さんに素早く回して、
「お……そうだ、伝えなきゃならんニュースがある。バジル長官がザリオン最高評議会総裁として正式に候補として名が挙がった。現時点の総裁、バド・スクラグ以外がビビって立候補しなかったんだ。これがどういう意味か解るか、ヴォルティ・ザガ?」

 姐御は白い顔を振り、ユイねえさんはニコニコ。ヤスはキョトンだ。

「バジル長官がザリオン最高評議会総裁になれば、ヴォルティ。あなたはザリオン種族の頂点に立つことになる」
 なんだかオレにはピンとこない話だが、後ろからユウスケとハゲオヤジの疲労感たっぷりの吐息が聞こえてきたので、それはすげえコトを意味するんだろうな。

 アジルマ大佐は自慢げに鼻息を吹いて、
「中佐。お前の番だ」
 ヤツの番だ。座るだけで天井に頭が着く恐竜野郎だ。
「オレが最後か……確かに今は中佐だが、来月には大佐に昇格する、シム・スダルカとはオレのことだ。第三艦隊の艦長だ」

 ドン、ドドーンと直立。二段階に分けておっ立った。今気が付いたが、こいつは座席ではなく床に直接座っていんだ。その状態で頭の先が天井を擦っていたというワケだ。
「どっはぁぁ――っ!」
 もう立ったではない。広がっただな。こいつはでかい。ティラノサウルスを部屋の中に放り込んだみたいな感じだ。
 天井を覆い尽くしたワニ連中で部屋が暗くなるほどだ。ヤスのヤツは二度目の気絶を敢行しているが、オレはかろうじて意識を保っていた。

「ほら。今度はマサの番よ。恥ずかしい自己紹介をしたらダメだかんね」
 と言う姐御の声に奮起された。
「アネゴ。オレはニュータイプの極道だ。この連中がどこの動物園から来たのか知らねえが、」
 そうさ、極道は舐められたら終わりだ。
「よく聞いてくれ! 動物園の諸君!」
 深く息を吸って、
「オレは藤原一家の若頭補佐で……マサだっ!!」

 一瞬の静寂。それは驚きではなく、蔑(さげす)みの静けさだった。

「迷子か? 迷子なら交番に行くんだな」
 片目のワニがごそごそと二人分の椅子に腰を下ろし、言った。
 がはは、と豪快に笑い、天井の大半を占めていたワニ野郎が床に直接しゃがみながら言いのける。
「大方(おおかた)、マミーの手を放したんだろ」

 こいつ………なんちゅう巨漢。一発でも殴られたらあの世行きだな。
 気を失いそうになるオレの鼓膜をもう一匹のドラ声が叩いて通った。

「ここは銀龍だ、ザグル。交番はねえぜ。でも乳母車ならあったな。ルシャール星の乳母車がさっき廊下の隅をうろついてたぜ、ぐわははははは」
 片目野郎の肩に丸太と変わらないティラノサウルスの太い指がどがっと乗せられるだけで、空気が揺れた。

 レイコ姐さんが眉を引きつらせたのが見えた。ちょっちお怒りのようだ。だよな。オレ舐められてるもんな。
 恐怖は吹き飛び、怒りが沸々湧き上がってきた。
 心の奥で自分自身に言い聞かせる。
 極道は舐められたら最後だ。

「最近のワニはジョークまでこなせるんだな」
 両手でテーブルをばーんっとぶっ叩いて、
「オレら藤原組を舐めってっと!! 痛い目に遭わせるぜ!」

 ―――――――――― ぁ?
 誰もビビらんかった。代わりにシロくんの補足が入った。
『藤原一家。組長、藤原一揆(ふじわらかずき)、若頭、木村無僧。愛称はキムにい。表向きの二代目ですが、切れやすく短絡的な行動が組長としての冷静な判断力に欠けるため、現在は但馬哲次郎、愛称テツジさん、あるいは剛鉄のジロウ。この人物が二代目の有力候補となっています』

 何でもよく知ってんな、シロくん。

「まぁ。そんなに熱くなりなさるな、フジワライッカどの」
 まるでオレを慰めるかのように、バジル長官が穏和な口調で接してくるが、オレはフジワライッカて名前じゃねえ。マサっちゅうんだ。

 バジル長官は聞き入れてくれなかった。
「して……。フジワライッカどのは、どこの宇宙域から来たのかな? 縄張りはどこあたりだ?」

 縄張り?
 こいつらもヤクザか。なら話は簡単だ。
「オレは藤原組の者だ。お前ら見たことねえが、挨拶させてもらうぜ」
 長官の前へ行って、両足をおっぴろげてから腰を屈める。片腕を後ろに回して残りの腕を前へ。
「おひけぇーなすって」
「何を引くんだ?」
 差し出したオレの手の裏と表を白髪のワニが交互にひっくり返すが、この場合どう対処したらいいだろ。

「控えろってんだよ!」
 鱗の手を振り払って、喚いてやった。

「何だ! さっきからエラそうに、」
 今度はジェスダとか言っていたヤツが、頭の先で天井をミシミシ言わせて近づくと、オレの襟首を摘み上げやがった。まさに摘まんだ。
 そのままクレーンさ。ぐわーと天井まで持ち運ばれ、
「お前など、丸めて喰っちまうぞ、ぐわぁぁぁ!」
「へ、喰えるもんなら喰ってみやがれ、あっ!」
 そいつはオレを紙くずみたいに丸めると、ぽいと口の中に、

 うわぁぁぁぁ!

「やめなさいっ!」
 姐御の一喝だった。寸でのところで止まった。

 目の前に嫌な臭いのする牙がずらりと並んでいた。片手で鷲掴みにされたオレのボディはぎゅっと丸められ、ぬんっとも動かない。
 しかも顔が半分入っていた。今こいつの口ん中にオレ半分入ったんだ。

 うわわわわわ。
 まじでこいつオレを喰おうとしやがった。

 さっきまでの強気は一瞬で消えていた。
 そりゃそうだ。後で聞いた話だが、こいつら宇宙一狂暴な連中らしい。
 オレなんてチンケな田舎ヤクザだということだ。

 ここではっきりさせておこう。こいつらは商店街の着グルミじゃねえ。正真正銘のワニみたいな獰猛(どうもう)な連中で、ちゃんと言葉を話すし、艦隊って言うぐらいだから軍隊的な組織。つまりヤクザよりランクが上のプロ集団なんだ。

「ひぃぃぃぃ。ずびばぜーん。もう言いませんから。喰わないで」
 長い物には巻かれろ。これも藤原組長の教えだ。オレは忠実なんだ。
 後でヤスが目覚めたら、ちゃんと言い聞かせておこう。

「マサもあたしの家来なの。あなたたちと同じでしょ。仲良くしなさい」
「ヴォルティ・ザガはザリオンのしきたりだ。そっちのしきたりなど知らん」
 しかし超絶ワニ擬(モドキ)き野郎は、レイコ姐さんの睨みに素直に応えて、オレを元の床の上に下ろした。

 うげぇぇ。参ったぜ。命があっただけでも儲けものだ。
 クワバラクワバラだぜ。さわらぬ神に崇り無しだ。まったく。

 さっきまでの威勢は吹っ飛んでいた。連中が座るテーブルからすっと離れ、レイコ姐さんの後ろに回りむ。ここがいっちゃん安全な場所だ。
「ん? 何だよ、舞黒屋のオヤジさん?」
 何で近づくんだ、このオヤジ。
「あんたの席はあそこだろ?」
 テーブルの一角に一つだけぽつんと空いている上座(かみざ)を指差さすが、オヤジさんは潤んだ目を瞬きながらプルプルと首を振った。

「食われたないんや……ここに居(お)らせてくれ」
 憐憫(れんびん)の情がじわじわと湧くのはやっぱ当然だろ。



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