【星屑の囁きみたいに些細な出来事】 作:雲黒斎草菜(利用規約


この物語はフィクションです。実在のよく似たタイトルの作品・土地・人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。

『星屑の囁きみたいに些細な出来事』 作:雲黒斎草菜
2017年 3月31日(金)

時空を超えたクーデター


「あのプレス機からどうやって抜け出していたんだ?」
 襲ってくる連中は剣が自動的に刻んでくれるから、俺はもう気楽なもんだった。後ろに振り返って、優衣へ能天気な質問する始末。
 優衣はちらりと副主任の表情を窺いながら――副主任はいまだに意識ここあらず、
「なぜオレは気付かなかったんだ!」と、自己嫌悪の地獄をさ迷う亡者みたいな顔をしていた。

「プレスされる前に跳躍して難を逃れました」
 小声で取り急ぎそう言って、再び化粧を落とす作業に集中した。

 そうか、その手があることをすっかり忘れていた。何しろオレは慌てふためいていたからな。
「ぐだぁぁぁっ!」
 突然背後から襲って来たビゴロスへ、俊敏に旋回して対応する俺の両腕の反動で、体が大きく振り回された。体勢を崩して片脚を床に突きつつも、鉄の巨人は真っ二つ。

「ちょ、ちょっと。手伝ってくれ。俺ひとりでは、もう足腰が持たん」
「やったー」
 喜び勇んで立ち上がった玲子に、手の中で輝く聖剣を渡した次の瞬間、潮が引くように蒼光が消え、さっきまでの動きがウソのように静かになった。

「あー。ダメです。その剣は男性因子が無いと機能しない構造です」
 優衣は首を振って叫び、玲子は機嫌の悪さを露骨に出して言う。
「なんでそんなくだらないモノに頼るのよぉ。何の役にも立たないのにぃ」
「なっ」
 俺の男性因子をくだらないモノと言い切りやがったなこのヤロウ。

「他に何か武器は無い?」
 ぬわんと、蒼剣を箒みたいに俺へとぽいと放って寄こし、優衣へ手を差し出した。

 こいつ。聖剣を雑に扱いやがって……。
 呆れてポカンだぜ。

「なら、真紅の剣がよろしいかと。女王様」
 俺たちを取り囲む6名の女性の一人が前に出て進言。ついでに横から来た検非違使を蹴り倒す、という玲子にも劣らないおきゃんな姿を見せた。

 優衣はひとうなずきすると、自分の腰にぶら下がっていた剣を鞘ごと玲子に手渡し、受け取った玲子の目からは尋常でない闘志がメラメラと燃え盛った。見ていて、こっちが引くほどさ。

「っしゃ――! ちょっと暴れさせてもらうわ」
 ここ数日の欲求不満を爆発させる玲子の動きは、そりゃあ恐ろしいもんがあった。
 優衣から受け取った真紅の剣を鞘からしゅらーんと抜き、それで天井を指して笑いやがった。

「あはははははははははははは。オマエらぁぁ。全員まとめてかかってこ――い!」
 すぐに精神統一。抑圧の爆破と言う起爆剤も利用した凄まじいまでの『気』を放出し始めた。
 結ってあった髪の毛が自然に解け、扇型に広がり静電気を帯びたかのように、ミシミシと細かい音を奏でながら持ち上がっていく。
「やっべ。うっぷんが溜まってる分、今回のもすごそうだ」
 妖気と言ってもいい。こっちの肌に何かを感じるほどのパワーを受け、ちょっとそこから逃げたりして……。

「せぇぇぇぇぇーーいっ!」
 全身からほとばしる真の気を剣先に込めて宙高く跳び上がり、目にも留まらぬ凄絶な勢いで振り切った。

 ゾンッ!

 不気味な音が響き、ホールの空間が裂けた。
 三体のビゴロスを盾にして攻めてきた歩兵の集団が、大地ごと裂けるようにして左右に吹っ飛び両脇の壁に叩きつけられ、壁材もろとも奥へすっ飛んだ。

「どひゃぁぁぁ。ぜってぇ敵に回したくねぇ女だぜ」
 ちまちまと蒼い剣を振るのが、バカらしくなってきた。ちょっと休憩だ。
 俺の手に戻り再起動したものの、暴れ足りなげにしている剣を無理やり鞘に戻すと、再び蒼光が消え去り、爆発的な破壊力が嘘のように静まり返った。

「ふぅ」
 鞘から漏れる威厳のある光を見つめながら額の汗を拭い、一息入れる。
「こら、裏切り者。ユイに近づくな。変な病気がうつるだろ」
 見つめ合う優衣と副主任のあいだに割って入る。

 奴は迷惑そうに俺を見て、
「裏切り者はそっちだろ。ユイくんがアンドロイドだというのをどうして教えてくれなかった?」
「敵を騙すならまずは味方からだろ。ていうよりお前、味方じゃねえし」

「そう言うなよ。オレのCPUが焼き付きそうなんだ」
「だろーな。安っぽそうだ」

 訝しげに覗き込むのは副主任。
「どうしても腑に落ちないんだ。オレと女王様は250年来の付き合いなんだぜ。どーなんってんだよ。やっぱりユイくんが女王様とは考えられない。この子とは数日前に出会ったんだ。それとこの人らはレジスタンスの生命体メンバーだ。みんな亡くなったんじゃ……。うわぁぁ待ってくれ。CPUがオーバーロードしそうだ」

「そんなの簡単に説明できるぜ」
「うそだろ?」
「ユイは時間を飛べるんだ」
「ば……バカな」
「バカでもカバでもいいけどさ。勝手に悩んでくれ。こっちは忙しいんだ」
 とは言ったが、面白そうなので小休止続行だ。

「ユイくんが女王なのか、女王がユイくんなのか?」
 派手に頭を振り、自分の出した疑問を否定する。
「違う! 何度も言うけどオレは女王陛下と250年付き添って来たんだ。でもこのユイくんとは数日だ……」
 堂々巡りを始めやがった。

 そして「どっちが真実だ……」と言って頭を抱き込み、きっちり2秒。
 がばっと赤い目をして叫ぶ。
「さっきプレス機に入れられたユイくんは誰なんだ!」
 ふははは。大いに悩め。俺たちを騙した罰だ。

 静謐な瞳を副主任に向け、優衣は朗らかに言う。
「ワタシですよー」
「250年間慕ってきた女王様は?」
「ワタシですね」
「むぅ…………………………」

 みたび頭を抱え込んだ副主任へ楽しげに優衣は説明する。
「プレスの入り口が閉まった数ミリ秒後に、400年過去のクロネロアシティに飛んだんです。別にどこでもよかったんですが、何だか気になり……。そこで健在だった生命体のみなさんと出会い、どの歴史に遷移させるのが正しいかよく考えた末……」
「お前が女王になったのか?」
 思わず口を出してしまった。だって副主任は口を開けたまま固まっているし。

 平然と優衣は首肯し、可愛らしい顔を上げる。
「それじゃあ。ここに来るときに流れていた歌声はやっぱりMSKだったんだな。それも自分に宛てた……」
「そうです。だってクロネロアにはアンドロイドが多すぎてEM波が乱れ飛んでいますから、お城にやって来るまで女王がワタシだなんて思っていませんでしたもの」
 ここにはいないシロタマを遠くで動き回る玲子の頭上で見つけて、優衣は視線で示して言う。
「シロタマさんにはこっそり知らせていたらしく、」
「おい、聞き捨てならんな。タマの野郎は全部知っててシラを突き通していたのか。だからちょくちょく城へ遊びに行ってたんだな。戻って来たらお仕置きだぜ」
 シロタマは憂さ晴らしに暴れまくる玲子の頭上で、敵に向かって囃し立てていた。まるでプロレス観戦の野次馬だ。

「ちょっ、と」
「何だよ副主任。いまタマ野郎をどうしごいてやろうか思案中なんだ」
 肩に添えられた手を振り払う。

「今の話が本当なら、ユイくんは250年間ここに暮らしていたことになる」
 やけにだぶだぶになった女王の衣服をまくりあげながら、優衣は白い顎を前後させ、副主任は腕を組んで首を捻り固まる。
「……こんな事実があり得るのだろうか」

 となると、今度はこっち問題だ。またまたもたげてきた意味不明の現象だ。俺の記憶に新たな事実を書き加えなければいけないことになる。

「……以前、時間跳躍の説明をするためにピザだとか古い写真だとか出して見せていたことがあったよな。あの時には、ユイ。お前、もうこのクロネロアの女王になっていたことになるぜ」

「多重存在なんてよくある現象ですよ」
「ねえーよ」
 あー。頭痛ぇぇ。
 こいつ、けろっと言い切ったけど、俺が生まれる前からここにいたと宣言したんだぞ。

「はぁぁ……せめて気づいた時点で俺たちにも知らせてくれたらいいだろ?」
「それはできません。ワタシの異時間同一体と記憶の同期が取れていませんからうかつな行動は厳禁です」

「なーユースケくん。オレにも質問させてくれよ」
「何だよー。まだお前が味方だとは決まってねえんだ」
「ユウスケさん。副主任さんはワタシの、いえ女王陛下の陰の介添人ですよ」
「オレは女王の言うとおりに手助けをしていたんだ」
「さっき裏切ったじゃないか」
「裏切ってないって」

 こっちの戻ってきた銀白の球体が口を挟む。
「シロタマを棺桶に紛れ込まちぇて、海洋葬のドサクサに海へ放ってくれたのも、帰って来た時にハッチを開けてくれたのも、このオッサンでシュ」
 相変わらず口が悪いな、お前。

 副主任も苦笑いを浮かべつつ、
「敵を欺(あざむ)く前に、まず味方からって言うだろ」
 もういいよ。三度目になるとさすがにうんざりだ。
 結局みんなで騙し騙されしていたんだよ。

「だったらユースケくん。せめてもう少し説明してくれよ」
 さすがにこのまま放置するのは可哀そうになってきた。

「いいか副主任。聞き返すなよ、時間がねえからな。今から言うことにはウソもまやかしも無しだ。真実を言う」
「ああぁ。手短に頼む、そろそろレイコくんが心配だ」
 俺は向こうの動きをチラ見して、
「あ。心配ない。今行くと逆に張り飛ばされる」
 玲子は遠くで楽しそうに舞っている。説明する時間は十分にありそうだ。

「ユイは時間と空間の移動ができるアンドロイドだ。しかも宇宙に変化が起きない範囲なら歴史を変えてもいいという許可も貰って未来から来たんだ」
「なんのために?」
「それは言えん。時間規則に反する」
「なぜ? それなら……」
「まあ、聞けって」
 もの問いたげな副主任の口を制して、
「ここからは俺の想像だが、たぶんレジスタンスが皆殺しになったという歴史だけを修正したんだと思う」
「時間だけでなく空間も移動できる……か。うん、間違っちゃぁないな」
「どこに着地してんだよ。俺の話し聞いてる?」
「聞いてるよ」
 副主任は満足げに顎へ指を添えてうなずき、
「時間移動と空間移動は両方できないと成立しないんだ」
「何だか偉そうだな。俺とユイは時空理論のプロだぜ」
 そんなプロは無いだろうけど。

「そりゃあ悪かった。気づいていないかと思ったもんでね」
「何を?」
「400年過去だと、我がクロネロアはこの宇宙域にいないからさ」
「あ……」
「だろ。でないと時間跳躍ができても、空間移動ができないと宇宙に放り出される」
 なるほど……。
「それとさ、ユースケくんが言った、時空修正してマスターを絶滅から救ったという説はおかしいよ」
「何だよ。文句つけるなよ」
「だってさ。そうなるとオレの記憶と齟齬が生じるじゃないか。だいたい、反乱が起きたのは60年も前だぜ。当時二十歳(はたち)そこそこだったこの人らはお婆ちゃんになっているはずだ」
 もう一つおまけに、なるほど……。
 副主任は、電撃ロッドを振り回して検非違使を滅多打ちにする元気な女性を眺めて、ごく当然のことを言った。そう、この人たちはどこからどう見ても若い女性だ。

『今回、優衣は時空修正を行っていません。反乱は失敗に終わり、反乱軍は皆殺しなったというデマを流しただけです。助けられた生命体は活性睡眠チェンバーに入れられ、一週間前に蘇生されていますので、60年間老化は進んでいません』
 とシロタマは言い、優衣も肯定する。
「はい。昨日、副主任と見つけたワームホールの先にあったのと同じものです」
 もはや過去の話をしているのか、現在の話をしているのか解からなくなってきた。こいつらが説明を始めると最後はいっつもこうだ。

 それでも副主任は不服そうに口を尖らす。
「何だよー。250年も慕って来たんだぜ。知ってたらオレにだけでも教えてくれてもいいだろ」

『敵を欺くにはまず味方から、です』とはシロタマの報告モード。

「おいおい、みんなで使いまわすなよ……それじゃあ、馬鹿正直に動いてるのはアイツだけか」
 玲子に目を転じる。
 奴は汗ひとつ掻かず真紅の剣を振り回しつつ、こちらに戻ってこようと後退し始めていた。

「やっと疲れてきたたな。さて、じゃそろそろケリをつけて来るか。 最後に主役が締めなきゃな」
 などとのんびり構えていた俺の鼻先で、頬(ほほ)を震わすような低い空気の振動と細かいアークがほとばしり、不可視の膜みたいなものが天井から床まで張り巡らされた。

「何よこれ?」
 円周状に張られた膜の中に閉じ込められた玲子が、剣の先で突っついた。
「あ、痛っ!」
 派手に火花が飛び、弾かれるようにしてショックを腕に受け、
「突っ返されるわ」
 二の腕辺りを摩りながら、睨み付けていた。

『ギンリュウの侵入を阻んでいる電磁シールドと同じだと思われます』
 シロタマが説明し、玲子が振り返る。
「ユイ。これ何とかできない?」
 優衣が両手の平を広げて、不可視の表面にがっしりと当てた。同時にほとばしる放電スパーク。
「うっ、あぁ、ん……んん」
 苦しげに堪える優衣に大きな影が近寄った。
「いかに女王様のお力であってしてもそれは無理な話。ムチャをするとマナを奪われますぞ」
 憎たらしい司令官の声だ。シールドの向こうで、不敵な笑みを浮かべてマントをなびかせていた。
「何だこの悪役野郎!」
 悔しげに叫んだ俺を一瞥した灰色野郎たちが、不気味な唸りと青白いアークを放出してシールドをすり抜けて来た。
「これは異なことを」
「悪役はそちらであろう。女王様をたぶらかし、民を混乱におとしめる異星人と狂ったアンドロイド、七番めが」

「自覚がねえのか? ほんとうに悪いのはテメエらじゃねえか。異星人を捕まえては冷凍保存しやがって、俺はな、いま猛烈に腹が立ってるんだ!」
 ──のだが、目の前でシールドに張り付いた優衣が気になる。



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