【星屑の囁きみたいに些細な出来事】 作:雲黒斎草菜(利用規約


この物語はフィクションです。実在のよく似たタイトルの作品・土地・人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。

『星屑の囁きみたいに些細な出来事』 作:雲黒斎草菜
2017年 3月12日(日)

救難信号と検非違使


 それは機長が目の覚めるような操縦を披露して、ふありと銀龍を水面に舞い降ろした直後に起きた。

「社長。通信が入ったダ」
 田吾の頓狂な声を聞いて、俺、慌てふためく。
「ぬあぁ。不法侵入を咎(とが)める気だ。くそっ、嵌(は)められたぜ。近づくのを待っていたんだ」

「なんで裕輔は悪いほうへ物事をもっていくかダすかなぁ?」
「だってよ。プローブの時は黙っていて、母船が降りたら通信が入るって、ぜってぇおかしいだろ」

 田吾はニタニタと笑いながら、
「この通信は、お咎めじゃないダす」
「じゃ。何だよ?」
「救難信号ダす」

「きゅぅぅぅぅなん!」
「アホかおまはん。ニコニコして言うもんやないやろ!」
 今度はおハゲちゃんが噛みついた。

「そーダすか?」
 ヲタは何を考えて動くか分からんから怖ぇぜ、本気でよー。

「ほんでどこからの救難信号や?」

 バカ野郎は銀龍の床を指差し、
「海の底からダス」

「はぁぁぁ?」
 あんぐりと口を開けたのは俺だけではない。
「と、とにかく音声に出してみいな」
 バタバタする俺と社長を変な目で見て、田吾がスイッチを入れた。

《ワレワレ……キュウジョをヨウセイする……イマ……そちらに………………》

「要請するって……なんか怒ってるのかな?」
 やっぱりどこか後ろめたい気持ちが腹の底で痼(しこ)っているので、そう思ってしまうのは俺のクセで、
「そうでっか? ワシはなんか命令されてる気がしまっせ」

「きっと、シロタマのコミュニケーターが故障してるのよ……違うの?」
 天井を見上げる玲子に、タマ野郎は平然と言う。
「コミュニケーターは故障してない。あっちの言葉ちゅかいが変!」
 お前の言葉遣いもずいぶん変だけどな。まぁ大目に見てやる。プローブを水面離脱できない俺が悪いんだ。

 自責の念に押しつぶされそうな俺を黙って観察していた茜が声を出した。
「コマンダー、暗い顔してますけど大丈夫ですか?」
 さすがだな茜。俺の心情を察知して優しい言葉を掛けてくれるなんて感激だぜ。

「お腹でも痛いんですか?」
「……痛くねえよ」
「プローブの水面離脱ができないコマンダーなんて、もうコマンダーとは言えないでシュね。最下位に転落でシュ」
 さらにバカタマの野郎が、チクチクと刺してくる。こいつはこういうことに関しては洞察力抜群な性能をしている。

 俺は睨みを利かせて問いかける。
「コマンダーなんかにランクがあんのかよ?」
 奴はまたもや平然と、
「コマンダーにもいろいろなランクがあるんでしゅ。中級がマスターコマンダーで、最上級がマイスターなんでシュよ。ユースケはただのコマンダーからそれ以下に落ちたでしシュ。それでも我慢するアカネはエライでシュねー」

「くぅのヤロー!」
「あー。うるさい! 事は緊急を要する救難信号なのよ! ケンカするなら道場へ行きなさい!」
 第二格納庫を堂々と道場と言い切りやがって。私物化も甚(はなは)だしいぜ。

 社長は迷惑げに顔をしかめ、田吾に音量を上げろ、と指示。
 そして優衣が静かに告げる。
「小型の水中艇が近づいて来ます」

《モウスグ……トウチャクする。ハッチのアケろ……すぐ!》

「やっぱり数段上から物を言うとるで。なんや知らんが腹立つなぁ」
「いや。それより救助を要請すると言っておきながら、ドッキングするって、どういう了見だ?」

《ハヤク…ハッチあけろ……アケる》

 どこか言葉遣いがおかしい。でもそんな連中は銀龍に大勢いるので気にはしないが、
「しゃあない。第一格納庫のハッチ開けるで。ほんでアマゾネス……いや。玲子らは武器を所持して集合や」

「あいあいさー」
 茜は元気に挙手し、玲子も結構ノリノリで、ロッカーからハンドキャノンを取り出すと一目散に格納庫へ走った。
「ほな。ワシらも行きまっせ」
「社長。やっぱ不法侵入を咎めに来たんだぜ。ぜっていあの口調は怒ってるんだ」
「そやけど救助の要請やゆうてましたで……」



 二人して首をかしげつつ、格納庫の中央へ歩み寄った俺たちは──。
「ワレワレ……。タスける……マスターの救助……のだ」
 何ともおかしな言葉遣いを続ける物体と遭遇した。

 ハッチを開けると、横づけになった小型艇のドッキングポートが開き、赤い衣服を着たロボットが下りてきた。
 ロボットは二体。人工生命体とも言えない貧弱な作りで、どちらも牛乳瓶の底みたいなレンズが付いたカメラ風の眼玉が、一体には二つ、俺たちと同じ位置に取り付けられており、もう一体は顔のど真ん中に一つあるだけだ。つまり一眼レンズのカメラだな。そんな顔に鼻は無く、口の場所には音声合成装置から発声する音に近い、ガサついた声を響かせる装置が剥き出しに出ていた。

 その中で一際目立つのは、ひょろ長い身長だ。175センチの俺よりもまだ頭一つ高い。とまあ、言っても特別おかしいわけではなく、2本の腕と2本の脚で歩く姿など、設計デザインを見るかぎり、俺たちと同じヒューマノイド型の生命体が創造したと思われる。にしてもできがいいとはお世辞にも言えない。どこから来たのかは知らないが、あの小型艇を操縦してよくここまで来れたと思う。

「我々……。助けをモトめる……マスターの救助……のだ」
 ツインレンズのほうがこっちに向かって、さっきから同じセリフを発声し、顔の真ん中に一個しかないほうが、珍しげに格納庫を見渡して首を振っていたが、それがなんとなく妙な感じで、玲子はずっと警戒してハンドキャノンの銃口を突きつけたままだった。

「助け……救助………要請……マスターの」
 連中はそれが何を意味するものかも理解でいないようで、同じ単語を繰り返しすだけだ。振る舞いも全体的にたどたどしく、異様な言動が不気味な雰囲気を醸し出している。

「アンドロイドと呼んでもいいのでしょうか?」と言う優衣の困惑した顔を見る。
 人工的な動きはそう呼ぶべきなんだろうが、そう呼んでいいのかアンドロイドである優衣でさえ言いあぐねている。それほどにひどいのだ。

「我々…助けは……求める……マスターが救助……ので」
 赤い長袖の作業着の両腕を交互に上げたり下げたりして発声する声音は、人語というよりも、ブザーを掻きかき鳴らすようで、耳障りでイライラする。

「ワタシたちの言葉が解りますか?」
 あまりに異様な雰囲気にビビった茜が粒子加速銃の起動レバーを倒そうとするのを片手で制して、優衣が優しげに尋ねる。

「我々…は……助けを……求める……救助……のマスターで………」
 レンズが2個付いたほうのロボットが優衣に向きあい、さっきから同じことを繰り返し、もう一体は茜と優衣、玲子を順に観察するような動きで、小刻みに一つのレンズの向きを変えていた。

「埒(らち)が明かねえな」
 と言う俺の顔へ、一眼レンズが顔を近づけてきた。手前のレンズの奥に何個かのレンズが重なっており、モーター音を上げて焦点を合わせたり、不思議そうに首を傾けたり、動きは結構せわしない。

「首をかしげたいのはこっちのほうだぜ」

「我々……要請………救助」
 ツインレンズが言って、いきなり俺の腕をつかんだ。指はちゃんと5本あり、金属の関節が小さな音を出してつかんできたのだ。
「なっ!」
 すげえ力だった。振りほどこうとしたがびくともしなかった。

 突発的な動きで誰もが予測できない行動に茫然としたが、意外にも優衣がそこで凄んだ。
「生命体に対して、非礼な態度は許しません!」
 凛とした態度でそいつの指を片手でこじ開けると俺を優衣は解放させた。

「おいおい……」
 優衣の立ち居振る舞いに仰天だった。
 威勢のいい声といい、その俊敏な動きは──隣でキョトンとしている玲子の横顔をつい見てしまった。
 そう、玲子と瓜二つだったからだ。

「いつの間にか、お前の動きを学習されてっぞ」
 耳元にこっそり囁く。
 玲子は恥ずかしげに、モゾモゾとハンドキャノンの銃口を下げた。

 優衣に力づくで指を開かれたそいつも、自分の指がなぜ意思に反して開いてしまったのか、思案に暮れるチンパンジーみたいな仕草をして自分の手のひらにレンズを傾けていたが、
「救助………救助……マスター」と、思い出したかのように、また始めた。

「マジで進展しねえな……」
「ユウスケさん大丈夫ですか?」
 心配する優衣に、腕を摩りながら微笑み返す。
「平気だ、問題ない。こいつら敵意は無いみたいだ。腕を握ってきたけど、ある程度のところで力を緩めたぜ」

「そう。よかった」
 俺には安らいだ面持ちを曝し、連中には毅然とし態度で接する。
「まず。名前を述べなさい。あなたたちはこの惑星の住民が作った人工生命体なのですか?」

 一つレンズの奴はずっと玲子と優衣を交互に観察をするだけ、2つレンズの奴がやっと名乗りを上げた。
「我々…。ケビイシ……マスター…のだ」

「何だよ、ケビイシって?」
 俺の質問に答えるのは例によって報告モードさ。

『検非違使です。役人……特殊警察のようなものです』

「何でも知ってるな、こいつ」
 シロタマの博識には脱帽する。

 それにしてもさすがにこれだけ高圧的な態度で振る舞われたら、誰だって腹が立つもので、そういうことに敏感な社長ならなおさらのことだ。

「その特殊警察が何でんねんっ!」
 顔を真っ赤にして憤怒をむき出しにしてた社長は、ツインレンズに指を差して怒鳴り散らす。
「救難信号を出したんは、おまはんらか!」

「……キノウ……マスターがキノウしない、コンワクして……る……いる」
 さっきからまばらに挟まれる単語ぐらいしか意味が通じないし、それもただ繰り返すだけだ。

 社長は怒りを呆気に変えて、連中に眉をひそめる。
「シロ……。もうちょいコミュニケーターを何とか調整できひんか? 昨日(きのう)なんかしたとか、してないとかゆうてるで」

「う~ん。コイツラ言語マトリックスが不完全で単語どうしを結ぶワードが特定できないみたいでシュ。だから……無理」
 いとも簡単に切り捨てやがったな。

 肩をすくめる俺と社長だったが、優衣は『救助』と『要請』という単語が気になったのか、積極的に声をかけた。

「機能しないとは、機能不全を起こしているのですか? それは深刻な状態ですか?」

 あー、『昨日』じゃなくて『機能』か……理解力あるなぁ、優衣。
 変なところで感心したりして。

「である。深刻。事態は窮する。この2名、同行を……求め……早急」
 こちらの言うことはある程度理解するようだ。

 連中は再び、今度は玲子の腕を、そして一つレンズのほうが俺の腕をつかんだ。さっきより力は緩めだが、がっしりと嵌められた腕は手錠のようで、俺の力では緩めることができなかった。

「ちょっと待ちなはれ。理由も言わずにうちのクルーを連行するのは許さへんで」
 社長がその前を遮り、再び優衣が迫り、茜が粒子加速銃の先を突きつけた。

「レンズ撃ち抜きますよー」

 銃の先で一眼レンズの奴を突っついて可愛らしく凄む茜を、玲子の三代目(二代目は優衣な)誕生の瞬間と見極めた気分で眺めていると、
「無い……モウシワケ。急をヨウする、ジタイで……方法ナイ……無い」
 両方のロボットは消沈。俺の腕を解放すると床に膝を突き、おとなしくなった。

「すまない……謝罪……謝辞」

 敵意は全く感じられないのが救われた。たどたどしい中でも焦りが見え隠れする単語に、何となく同情の念が湧きだす始末だ。

「何や拍子抜けでんな」
 やれやれ、と弛緩した空気が漂い。

「で、マスターとは誰やの?」
 社長の問いに2個レンズの面が向いた。

「我々を……マスター作った……せ……生命体……で……あ……るあ……ある」

「ようするに病気ということやな」
「ビョーキ? 我々に……。そんなコトバ……無い。機能フゼンは……機能不全…不全」

「生命体が機能不全を起こすことを病気になると言うのですよ」
 優衣の慈愛に満ちた瞳が二体へ注がれ、スキンヘッドは興味深かげな顔をした。
「医者はおらんのかいな、そっちには?」

「……オラン……らおん? オラん? イミフメイ………カイセキ不能」
 ツインになったレンズ野郎がしきりに首をかしげるので、
「医者はいないのか? と訊いています」
 優衣が言い直してようやく顔を上げる始末。



「なんでおらんのや! 生命体は大勢おるやろ?」

「ヤロ……おルヤろ? カイセキできません」

「せいめいたいは、何人もいてるやろ……ちゅうてまんねん」
 自分のおかしな方言のおかげで、一向に会話が成立しないので、だいぶ苛立っている様子。頭なのか額なのか、眉から上、難しい位置にシワを寄せて、またもや声を荒げる社長。

 少しの間を空けて、ポツリと小さな声を出す。
「ひとり……」
「一人ってぇ?」
 茜が首をかしげ、それに反応したツインレンズ野郎が、からくり人形によく似たギクシャクした動きでうなずく。

「……ひとりダケ」

「一人とは、他には誰もいないという意味でっせ?」
 意外にもロボットたちはそろって首肯した。

「これはのっぴきならん状況みたいやな。ゆっくりでええから最初から話してみぃや」

 社長の提案に、たどたどしいながらもツインレンズの野郎は説明を始めた。そう言えば一本レンズのほうはいまだに一言も発していないが、喋ることができないのだろうか。大したことではないが気にはなる。

「ハジメ……980人いた。700年……のこり……ひとり……」

 連中の説明は、自分たちを拵えたマスターと呼ばれる種族の何代か過去の話しから始まった。

 人工的に重力を作る装置を開発したご先祖様がいたそうだ。しかしそのおかげで母星が重力バランスを崩し、太陽と呼ばれるべき恒星の周回軌道から逸れだした。
「ほんなら最初は水やのうて、地面のある星やったんやな?」
「…………?」
「せやからー。ここは水しか無いやろ。なんやねんこの星は?」

「星……ちがう」

 母星の危機を悟ったマスターの先祖は、人工重力装置を逆に利用して危機を乗り越えようと考えた。それは燃料にもなり、飲料もできる水素と酸素の化合物を人工重力で大量に引き付け、宇宙に飛散しない巨大な水球星を造りあげた。

「ほな、ここは宇宙船かいな? こりゃえらい大きな話になってきたで……ほんでどうなったんでっか?」

 マスターは水に囲まれた巨大な宇宙船の内部で生活を営みながら、新天地を目指して700年の旅に出たらしい。
 そこでは種の保存も行っており、それを作った知的生命体が980人、それ以外の動植物も雌雄ペアで積み込んでいたという。

「新天地を求め、ってゆうけど700年は長いやろ。よう無事やったな?」

 連中は一旦首肯した頭を横に振り直して、
「マスター以外……順調………」
「以外って、それはどういうことなんでっか?」

 大型の動植物などの世話やマスターの健康管理などをするために、役割別に配置されたアンドロイドが全部で100体乗り込んだのだと、話は核心へと迫って来る。

 水球星が旅立って初めの頃は人口も安定していたが、そのうち年代を重ねるゴトに新天地への移住という目標が薄れてきた。それは代が替わるごとに顕著になり、目的意識はいつの間にか崩壊し、人口は減少。やがて百数十年前から新生児が生まれても数人になり、悲観した生命体の中には自ら命を絶つ者も現れ、事態はさらに悪化の道をたどった。

「最後、のセイメイタイが……不全……機能不全……オコタシ……オコシタ」
 悲しい言葉を綴るのだが、連中の顔には表情を表す機能が付随していおらず、淡々と説明するだけだ。それでも経緯が理解できると、こっちは大いに同情してしまった。



「目的地まで…ノコリ少し……生命体…するセワ……我々の存在意義……創られている。生命体……無く……停止、我々……」
 はっとして一眼レンズのほうを見遣った。初めて喋ったからだ。

 ただ単語の羅列だけでは意味が解かりずらく、意味不明な部分が多々あったが、優衣がうまく綴ってくれた。

「生命体を世話することが存在意義として作られたこの人たちは、目的地まであと少しなのに、ここで誰も居なくなると機能停止をする。ということを言っているみたいですね」

「なるほどなあ……」
 重々しい吐息をする社長。玲子もその境遇に共感して何度もうなずく。
「せめて最後のマスターには新天地を見せてあげたいわね」

「よっしゃ、理由は解った。裕輔と優衣、シロタマを連れてマスターの治療に向かいなはれ」
 何でも顔を突っ込みたがるオッサンだぜ。そんな暇は無いと思うぜ。

 ポンと膝を打つ社長に嫌な顔を露骨に出すわけにはいかないが、言いたいことだけは言わせてもらう。
「あのさ……」
「レイコも一緒に行く。こいつだけでは心細い」
 タマが漏らした今のセリフ、まさに俺が言おうとしたセリフだ。

「そっくりそのまま、返してやるぜ!」
「おおきにユースケ。感謝感激でシュよ」
「社長の口調を真似るのはよせ。いろいろと複雑な感情が芽生えるだろ」

「それどういう意味や、ジブン!」
「あ、いや。それほど深い意味はございませんでして……」

「まぁええ。シロタマの言い分も一理ある。ほな、玲子も行きなはれ」
「あ、はぁーぃ」
 気のない返事をして立ち上がる。

「検非違使さん。案内してくれますか」
 すでにドッキングハッチへ向けて歩もうとした優衣が、連中の手を引いて立ち上がらせた。

「感謝、たくさん。かたじけ……ない……」

 二体のロボットは頭を下げると、ひょろ長い体をフラフラさせ優衣の後を追った。
「ほれ、おまはんも行きなはれ」
「社長。何か嫌な予感がする」

「なんや? 朝の占いが最悪やったんか?」

「ち、違うよ。そうじゃなくて、よく考えてくれよ。こんな棺桶みたいな乗り物に閉じ込められて、海の底へダイブすんだぜ。もし途中でこっちが遭難したらどうすんだ? あいつらの作り見たろ。玩具クラスのロボットに身を託すのは嫌だ」

「その点ならちゃんと考えてまんがな。パーサーにゆうて、到着までおまはんらの転送マーカーをロックをさせ続けるがな。危険を察知したら転送で戻したる。それよりホンマの救助依頼を断るほうがマズイやろ。ワシら不法侵入者やからな」

 とまで言われたら──断る理由が失せた。不法侵入の大きな原因は俺のせいでもある。

「どうだ、玲子。大丈夫か?」
 こうなりゃ責任転嫁しちゃる。

「何でやねん。おまはんらは最強チームやろ」

「いや。玲子の奴、今日はナーバスになっているみたいで」
「そんなことない!」
 玲子が横から割り込むと喚いた。
「なに言ってんの。こういう日はね」
 やけに目の奥にキラキラしたものを溜めて、どこか遠くを見つめて言った。

「こういう日はね。暴れたい気分なのよ」

 社長は大仰に息を吐き、俺は肩の辺りが重くなるのを感じつつ、輝きだした奴の面持ちを呆れ視線で見る。

「魔物を退治に行くんじゃないぜ。治療に行くんだからな。そこんとこ本気で頼むぜ」

「まかせてよ──」

 となると、こいつもいっちょ噛みたがる。
「じゃあ。わたしも行きたいでーす」

「そんなに大勢で押しかけても迷惑やデ」

「いやーん。行きたーい。わたしも行くー」
 駄々っ子みたいになって来たぜ。同じ人工生命体でもこうも違うものか……バタバタ足を上げ下げする茜に一眼のロボットが焦点を合わせていたが、その仕草は機械そのものだ。でも俺に体重を預けて柔らかい感触で絡んでくる茜も同じ人工物だ。この差はいったい何だ。

 これ以上人数が増えるとろくなことにはならないし、優衣とは時間のパスで繋がった関係だと思うと、よけいに連れて行くわけには行かない。茜に万が一のことがあると、それは即行で優衣に影響が出るのだ。

 子供を言い聞かせるように言う。
「連れてってもいいが、どうするアカネ。お前の留守中にミカンが畑をムチャクチャにしちまうかも知れねえぜ」
「そんなことありませんよー。ミカンちゃんは賢いですからぁ」

「そうかぁ? それならいいんだけどな。ミカンの奴、第四格納庫へ行ったままいまだに戻らないぜ。今ごろあそこで好き勝手やってんじゃじゃないか?」

 茜は瞬時に丸い目を俺へと見開き、
「きゃぁ~。ミカンちゃぁん。早まらないでぇぇぇ」
 第四格納庫へとダッシュで消えた。

「緊迫感を潰すなら、お前とミカンとのコンビは最強だねー」
 俺はその後ろ姿に語ってやり、玲子は意気揚々と直立し、元気にハンドキャノンを特製フォルダーに突っ込み、上から作業着風のジャケットを羽織った。

「さぁ。行くわよ!」
 威勢のいい声に俺は強く主張する。
「武器は持つな。俺たちは治療に行くだけで、別に宇宙人に侵略された土地を奪い返しに行くんじゃないんだ」
 玲子は何か言いたげに、唇を平たく突き出していたが、何も言わずにロッカーへ片づけると宙に浮かんでいたシロタマを引っつかみ、優衣の後を追った。

「ったく。あいつがあれを持つとろくなことがないんだ」

 社長は黙って眺めていた俺に、
「はよ行かんかいな………」ぽつりと漏らす。
「やっぱ俺は行かなくていいだろ? 治療するのはシロタマなんだし」
「アホか。おまはんはキーなんや、キー」
「何だよそれ?」
「ええか、シロタマを制することができるのは玲子や、ほんで玲子を制するのはおまはんや。おまはんを制するのはシロタマや」
「なんだそりゃ。三すくみか?」
「そうや」

「そりゃおかしいぜ。玲子を制御できる奴なんかいねえよ」
「ほんま、おまはんドンやな……何でもええ。連中のジャマだけはすんなや」

 う~ん。『ドン』とはどういう意味だろう。『丼』かな?
 『鈍』か?
 まさか、鋭敏な俺にはあり得ないだろ。だいたい社長が話す方言には謎の言葉が多すぎるんだ。

 とにかく俺は連中の後を追って、横付けになっていた小型艇に足を踏み入れた。



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