【星屑の囁きみたいに些細な出来事】 作:雲黒斎草菜(利用規約


この物語はフィクションです。実在のよく似たタイトルの作品・土地・人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。

『星屑の囁きみたいに些細な出来事』 作:雲黒斎草菜
2017年 2月 6日(月)

暴れ踊るタマくん


 轟音と一緒に白煙が部屋に吹き込み、俺はたじろいだ。前が見えなくなるほどのひどい有り様だったのだ。
「ど、どうしたんだよ?」
 混迷状態で床に転がっていたら、
「レイコどこ? ユイ、アカネ?」
 聞き覚えのある声が──俺だけを無視するこの声の主は……宇宙にあいつしかいない。

「シロタマ! こっちよ」
「こ、こら。わざわざ呼ぶことないだろ」

「レイコ! だいじょーぶ?」
 懸念は的中した。白煙の中から銀白色の球体が飛び出て来たのだ。
 それを見て俺は一気に脱力した。これでお終いさ。茜たちを目覚めさせてここを抜け出し、秘密裏にホテルに帰る計画を練っていたのに、こいつのおかげでそれが台無しだ。

「こんな派手にやらかしたら、大事(おおごと)になるだろ。このバカ! おとなしく銀龍の留守番をしとけばいいものをのこのこやって来やがって!」
 ついつい叫びたくもなる。

「バカって、オメエのことじゃにぇーか」
 まともに喋れないくせに。

 万策尽き果てて、頭を抱え込む俺。その隣で緊急バイオクリーナーを起動させた優衣と茜の深呼吸が始まった。
 フルマラソンを終えた走者みたいな早い周期で深く繰り返す呼吸音。そこへとシロタマの声も渡る。

「レイコ、縛られてる?」
「見りゃ分かるだろバカ」
「ふんっ」
「こ、こら俺を無視するな。こっちも縛られてんだぞ!」

 そこへ。

「野郎! こっちにいたぞ!」
 怒号を発して、ザリオンたちが部屋に飛び込んで来た。

 何が原因でこの騒動が起きたのか、ようやく理解できた。どうやってここを突き止めたのかは知らないが、拉致られたアマゾネス団を救助すべくシロタマが飛び込んで来たというワケだ。

 それよりもこの白い球体はえらく興奮していた。ブラックジョークをこなし、人をケチョンケチョンにもけなす。そして興奮もする機械。よくよくすごいものを管理者は拵えたものだ。

「よ、く、も……レ、イ、コ……を………」

 シャ────ッ!
 プニュプニュと揺れる柔らかげな身体から、金属を擦りつける音と共に、剣先にも似た尖った突起物を瞬時に伸ばした。

 ダンッ!

「ぐわぁっ!」

 目にも止まらぬ速さで突き出された剣先は、深々と壁に突き刺さり、かろうじてそれをかわしたザリオン人の頬からはオレンジ色の血液が滴り落ちていた。

 それは初めて見る激高したシロタマだった。

 しかしあの速度で突き刺してきた剣先を咄嗟にかわすなんて、このザリオン人も大したもんだ。

「すげぇじゃねえか、シロタマ」
 息を飲む俺の前で、剣先をゆっくりとボディに戻すものの、シロタマの怒りはまだ収まっていない。
「こっ、のー!」
 それは雲丹(ウニ)か機雷だ。表面から大量に剣先を突き出すと。猛然と高速回転を始めて男へ向かって突進した。

「くっ!」
 ザリオン人は、自らを狼だと豪語するだけの運動神経をしており、飛び込んで来たシロタマを髪の毛一本のタイミングで再びかわした。

 大きな金属音がして、壁をえぐり反対側に突き抜けるシロタマ。

 バガッ!
 間髪入れず、別の場所から飛び出して来る。それはまるで紙を貫く勢いだ。想像を絶するパワーに驚きもひとしおだ。

 このままでは船内が穴だらけになると、怖気づいた一人のザリオン人が至近距離からシロタマ目掛けて銃を撃った。
 腹に響く音がして白煙が広がったが、平然と中から飛び出したシロタマは男に勢いよく体当たりをする。

「グゲェェェ」
 爬虫類らしい声を漏らして床で延びるワニ一匹。

「おい、こいつはお前らの仲間か!」
 大声で問うて来たのは、ひときわでかいボディの艦長だった。

「そうよ、あたしたちを助けに来たんだからね。あなたたち観念なさい!」
 縛られたまま床の上に転がっているくせに、その声は勝ち誇っていた。さすがは玲子だ。負けん気に関してはザリオン以上かもしれない。

 艦長のほうも落ち着いていて、不敵の笑みを濃くして部下に命じた。
「こいつは人工物だ! おい、あれを持って来い」

 再び金属音とともに、金属ウニと化したシロタマが高速回転を始めた。
 それは見るからに危なっかしい物で、トゲ一本一本の先が鋭い剣の切っ先だ。そりゃ怖ぇえぞ。俺は相手したくないね。

 怒りをぶちまけるように暴れ回るシロタマは、標的が定まっていない。めったやたらに飛び回り、端から端まで壁を捲りあげ、ある時はそのまま床を突き抜け、天井から落ちてくる。どこをどう飛び回っているのか支離滅裂だ。耳を覆いたくなる大音響を放ち、船内がズタボロになっていく。

 これは怖ぇーぞ。
 シロタマの隠れた能力を目前で露呈され、驚きを通り越し、恐怖を感じるまでに陥った。
 流動性金属で再構成されたタマは、いまだにそれをコントロールすることができず、プヨプヨと体を揺すって見せる程度の安穏とした状態だったが、暴走中だとは言え、これをうまくコントロールできれば、ある意味最終兵器になる。

「シロタマ! 落ち着いてぇー。あたしは無事だから、もう大丈夫よ!」
 絶叫に近い黄色い声を聞き、シロタマが停止。トゲを引っ込めた。なにしろこのタマ野郎は玲子にだけは従順なんだから始末に置けない。
 シロタマはいつもの力の抜けた鏡餅みたいな楕円形に戻り、ぷゆんと銀白色のボディを揺らした。

 そこへめがけて、
「これでも喰らえ、くそったれがっ!」
 後ろにいたザリオン人が金属の箱をシロタマの後ろから被せた。

「何を……ぴゃ──っ!」
「ざまーみろ。やったぜ。こういうのは電磁シールドで抑え込むにかぎる!」

 一部始終を背中で受けており、状況がまるで分かっていなかった玲子。シロタマの叫び声がするほうへ体を捻らせたその刹那、箱に閉じ込められたところを目撃。

「し、ろ、た、まを……よくも……」
 お……おい。今度はお前かよ。

 みるみる黒髪が広がり、床を這い宙に舞いだす。静電気でもここまで髪の毛は持ち上がらないだろ。どういう現象でこうなるのか、知っている奴がいたら教えてくれないか。こいつが本気で怒り出すといつもこうなるんだ。

 さらに玲子の目つきが険しくなった。宿敵を見つけた猛禽類のそれさ。鋭く尖った攻撃的な眼光を艦長に突き刺すと、
「絶対にゆるさない!」
 という言葉が反撃開始の合図になった。
 玲子は縛られ床に寝転がった状態なのに、バネみたいに全身を反らして、果敢にも艦長の股間を力いっぱい蹴り上げた。

「ぐはっ!」

 他人事だが俺も痛みを感じて、いや想像して目をつむる。そうさ想像だけでも痛々しい。男なら誰しも知るヤツさ。これは痛いぞ。
 常々シロタマを大切に思う玲子だ──俺は思っていないが──それを無下にされたのだ。そりゃあもう殺意がこもっていただろうね。

 蹴られた艦長は反動でそのまま壁にぶち当たり倒れた。そこへ──。

「F877A、再起動完了です」
 バイオクリーナー処置でアルコールが飛ばされた優衣が最初に立った。

「ユースケさん、レイコさん!」
「どうしたんレすかー? もうおネムの時間ですかー?」
 のんびりした奴だなアカネー。これが寝る格好に見えるのか?

「ユイ! ロープを解いて!」
 玲子に駆け寄り、片膝を落として優衣が引きちぎったが、それはまるで糸だった。
 ずいぶん昔だが、言ったよな、優衣。
「ワタシは普通の女の子と変わらない」ってな。でも普通の女子は止まっている軽トラを引き摺ったり、糸を切るみたいに縛られたロープを引きちぎったりしないぜ。

 驚嘆めいた呆れの目でその行為を見つめる俺の横で、解放された玲子は爆発したみたいに起き上り、痛みに耐えながら床にうずくまっていた艦長の下腹部をもう一度蹴り飛ばした。

 俺がここで言うのもなんだけど。こいつの攻撃は卑怯極まりない。お前は男の尊厳を何だと思ってやがるんだ。
 とまぁ。敵方に付く気は無いが、男としてはひと言付け加えておこう。

 艦長は蹴り上げられ、反動でせり返る半身を玲子は容赦なく猛打。後ろに倒れる直前に両脚ドロップキック。
 奴は「ガッ」とか「グッ」とか、カ行濁音のいくつかを口から漏らすものの、思ったとおりこの中で最も体格がいい男だ。股間の痛みもなんのその。俺の真ん前で平然と仁王立ちした。

 ぐわばぁっと起き上がった巨体はまるでバケモンだ。玲子の直接攻撃なんぞ屁とも感じていない。力で屈服させるということは、このザリオン人に限って、不可能かもしれない。



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