【星屑の囁きみたいに些細な出来事】 作:雲黒斎草菜(利用規約


この物語はフィクションです。実在のよく似たタイトルの作品・土地・人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。

『星屑の囁きみたいに些細な出来事』【第一章:旅の途中】 作:雲黒斎草菜
2016年 11月27日(日)

 技術顧問でシッ!


 長い溜め息の後──。

「話しを……戻しまひょか、藩主様」
 もう一度仕切り直しだ。社長は真剣な顔をして、
「銀龍を提供するのはワシでっせ。その点はお忘れなくよろしゅうに」

「わかっておる。その前にまず主任。銀龍は宇宙船に改造することは可能なんか? それには何が必要なのだ?」

「推進力の確保と有害な宇宙線やスペースデブリの対策さえ行えば、立派な宇宙船になります。ゼロからあれほど大型の船を造ることを思えば、確かに経済的ですね」

 ケチらハゲは満足げな吐息して、
「そらそーや。ワシは無駄なことはせえへん主義や」
 と鼻息の荒い口調で大宣言。藩主は心なしか気の重たそうな様子。
「問題はエンジンと防御装置か……」
「元々はうちで作ったロケットエンジンを載せて宇宙船にするつもりで、銀龍を設計したんでっけどな。途中で御足(おあし)がアホほど掛かり、船体構造は宇宙船のままで大型ジェットにしたんですワ」

「そんなにコストがかかるのか?」
「藩主はん。海外旅行とはちゃいまんねん。宇宙でっせ。謎と危険でいっぱいなんや。いやホンマ」
 それは俺が吐いた台詞(せりふ)だろ。著作権の侵害だ。

「そうじゃな。宇宙は危ないと主任も申しておったからな」
 再び藩主の大きな溜め息。

「W3Cも銀龍を推薦しとるし時間も無い。銀龍の宇宙船改造を許可するぞ。改造費用は全額議会が出す」
 渋々決心したようで、低い声で告げた。

「ほぉ~でっか。ほんなら話は簡単ですわ」
 してやったり、てな感じでハゲオヤジは破願し、藩主が念を押す。
「で、ゲイツ。衛星には行ってくれるんだな」
 なぜここで藩主様は念を押されたのか、不審に思ったのだが、ここまで来たらこっちが有利とばかりに、社長はへこへこザリガニの腹筋運動みたいに体を前後させ、
「へえ、へえ。銭さえ出してもらえるんなら、宇宙の果てでも行きまっせ」
 危険より銭儲け、無茶を言う守銭奴、芸津社長。

「ほな。玲子くん。藩主の気の変わらんうちに……」
 社長は顎で玲子に指示を出し、玲子はハイヒールの音も高らかに座席の後ろに下がると、キャリーバッグから書類の束を出した。

「みな様。お見積もりをご準備させていただきました」
 上品な赤い唇から玲瓏な声音を漏らして歩み寄る。

「どうぞ。副々主任さま。資料でございます」

「田吾、見ろ。ついに裏の顔を曝け出しやがったぜ」
 いきなり折り目高で丁寧な態度に変身した玲子を見て、俺は戸惑いよりも強い驚きを感じた。
「んダな……」

「はいどうぞ。お受け取りください」
 可憐な姿で書類を配り歩く姿は、芳しい香りを漂わせた花びらが舞うようだ。このむさくるしい会議室が一変した。

「信じられないダな、玲子さん」と田吾が訴えるのは、あいつの裏と表のギャップを強く感じたからだろう。
「木刀を振り回すか、酔っ払って大笑いする姿しか俺たちは知らんからな。こいつは社長秘書として変身したときが裏の姿だ。あんまり見ないほうがいいぞ。目が潰れるかも知れない」

 念のためここに集まったブレインタワーの人らにも忠告しておいたほうがいいかな………。
 いやいや、やめておこう。人の不幸は蜜の味と言うもんな。あの姿は優雅に飛ぶモンシロチョウに偽装しているだけで、よく見たら毒蛾だったとなるのさ。そ、害虫だ。ひどい目に遭うがいいぜ。いつもの俺みたいにな。


「どうぞ……」
 艶やかな黒髪をなびかせながら、最後に藩主の前に書類の束を置いて、にっこりと微笑んだ。
 その道程(みちのり)に転々と美貌の毒牙に侵された男性どもが心ここにあらず、うつろな目をして放置されていた。

 バカめ………。まんまと術中に落ちやがって。
 こいつはスズメバチより怖いんだぞ。小さいからって気を許してっと、このあいだのヤバ系のお兄さんみたいに手を出した瞬間、玲子からボコられて鼻血まみれになるのがオチだぜ。

「裕輔ぇー。シロタマはどこ行ったダ?」
 関係無い話をぽつりとする田吾。そろそろ飽きて来たようで、あくびを噛み殺していた。

「あいつのことなんかどうでもいい。こっちのほうが面白い」
 でもハタと気付いた。そういえばブレインタワーに入ってから姿を見ていない。
 でもここはあいつの生れ落ちた場所さ。言い替えれば実家みたいなところなのでどこへ行こうと知ったこっちゃない。


 やがて会議も終盤。どこまでケチらハゲが食い下がるか。今のところ有利な方向に進んでいる。このまま行ってくれれば臨時ボーナスだって夢じゃない。旅行はおじゃんになったが、懐が温(あった)かかくなれば、それはそれで喜ばしいことで、今日まで受けた数々の屈辱を帳消しにしてもいいかな、なんて思案する俺の前ではプロジェクターに資料が映りケチらハゲが口を開いていた。

「玲子くん。経費から説明してくれまっか………」
「はい」

 打ち合わせ通りの進行だ。まずお金の話をさらっと進め、その後に技術的な内容へ移行させ、頭を痺れさせたところで、契約書にサインさ。
 悪い奴らだぜ。ほんと。

 玲子は一礼をして深呼吸をした後、一気に喋り始めた。
「スペースデブリから外壁を守るための補強の費用がこちらです。それからエンジンの載せ換え費用がこちらで…………」
「あー説明はよい。きみらが宇宙へ行ってくれると言うのを聞きたかっただけじゃ」
「はい?」
 藩主は玲子の声を止め、玲子はきょとんとする。

「いや。まだ肝心な話をしてまへんがな。藩主はん」
 社長も急いで前へ出る。妙な具合に流れが滞った。まさかこんな初っぱなで待ったが入るとは思ってもみなかったのだ。

「い……いや。ロケットエンジンは我が社のを使こうてほしいんやがな」
 いささか社長は慌て気味だ。

 藩主はケロッとした表情で主任の背を押し、
「その話じゃろ。了解した。ほれ、顧問の先生をお呼びして……わたしはここで失礼する」
 と言い出して、足早に出入り口のほうへ、
「ちょっと待ってぇな、藩主はん。まだ肝心な商売の話しが残ってますんや」
 商売って言っちまってるよ。

 藩主は片足を部屋の外に突き出して半身だけを捻って言う。
「きみらの意思を確認すれば、わたしの役は終(しま)いじゃ。この後、別の会議があるで失礼する。それとな、話はすべて顧問の先生に任せておる。そちらに言え。な、ゲイツ。じゃあとは無事に帰って来て報告を待っておるぞ」
 言うだけ言うと、藩主は顧(かえり)みることなくドアを閉めた。

 逃げたな……。と思ったのは俺だけではない。
「どないなっとんや?」
 社長が困惑の海に沈むのは、まだ早かった。

 藩主より先に飛び出していた技術主任が戻って来て、扉を半開きにし、そこから顔を覗かせた。
「ゲイツさん。技術顧問をお連れ致しました……」

 中の様子を窺う、不審な行動の後、
「皆様お待ちです。顧問……」
 一旦、首を引っ込めて外に知らせる。

 次の寸刻後、言葉を失くした俺たちは道端の石仏と化した。

「技術顧問のシロタマでシュー!」

 いつもと同じ、元気のいい声を轟かせて入室して来た白い球体。
「なぁーーっ!?」
 頓狂な声を漏らしたのは社長で、玲子はがっくりと肩を落とし、俺と田吾はそろって目を伏せた。

「やっとるかねー。ゲイツくん」
 得意満面の口調で部屋の中央へ進むシロタマ。後を追って入室した技術主任がそそくさと自分の席に座り、丸い目で様子を窺った。

「おまはん、今までどこにおったんや?」

「ここはシロタマの生まれ故郷デシュよ。どこで何をちようとハゲには関係ないよ」
「ハゲてなんか無いで!!」

 立派なもんでーす。つるりんしゃんとしてまーす。


「それより。ここで何してまんねん」

「ゲイツくんのポンポン船をりっぱな宇宙船にちてあげるのでしゅ」

「なんでおまはんが、そっちの関係者になってまんねん」

「こっちのほうが、おもチろそうだった」

「お、おもチろいって……。あのな! おまはんはこっちの人間やろ」
「こっちもあっちも無い。シロタマはおもしろいほうが好き」

 ガキの発想だぜ。実際ガキみたいな口調だし。
 社長も子供を言い聞かせるように、
「おまはんの出る幕は無い。おとなしゅうしときなはれ。エンジンはうちのロケットエンジンを搭載。装甲板は隔壁の倍増でじゅうぶんや。ほれ、玲子の部屋にでも帰って独りキャッチボールでもしとくんやな」

 羨ましいことにシロタマは玲子の部屋を自由に出入りできるのだ。

 ところが──。
 あいつに肩と呼ばれるモノがあったら、派手にそびやかしたであろう。自信ありげに社長の前で浮遊すると、
「ぷふふっ。やっぱちそんなオモチャ出してきた」
 蔑んだ声音で含み笑いをして──って、お前は機械じゃないのか!

 腹が立つが、こいつは嘲笑(あざわら)いもできる機械なのだ。どういう構造なのか、すげえなW3C。ていうか、そんなすごい機械を作った異星人の技術力には脱帽だ。


 社長はみるまに真っ赤な茹蛸(ゆでだこ)状態になった。
「ぬぁにぃぃぃ」
 歯をギリギリと噛み締めて、拳を振りあげる。

「しゃ、社長……冗談ですよ。いつものタチの悪い冗談ですって」
 玲子が飛び込んでなだめるが、まるで効かない。
「ま、ま。ゲイツ様。シロタマの話もお聴きください」
 技術主任も社長にすがり付き、泣きそうな声で訴えた。

「ロケットエンジン…? むぷぷぷ。いつの話をしてるんだよ。そんなの死語だぜ。幼稚園でも使わないでしゅ。やっぱり、おしゃる(お猿)しゃんの頭ではそれで精一杯なんでしゅね。シロタマが超未来の、カッコいい方法を教えてあげるでしゅよ」

 二人に鎮められて少しは肩の力を抜きかけた社長だったのに、またまたシロタマが焚き付け、間髪入れずに報告モードに切り替わる。

『反物質リアクターの特性を生かした新型エンジンの提案をします。さらにディフレクター技術と電磁シールドの応用で飛躍的な性能アップと確固たる防御システムに加えて、大幅に経費削減が可能。まさに画期的な秘策をW3Cとともに考案しました』

「なに言ってるダ。シロタマのヤツ」
「さぁ?」
 俺たちにはよく理解できないので、首をねじるだけ。

「反物質リアクターの特性を生かす…………」
 機嫌はよくないけど、社長が黙り込んだところを見ると理屈が合っていそうだ。

『反物質リアクターは、重力の相殺能力しかありません。すなわち1キログラムの重量の物質に掛かる重力を相殺してゼログラムにすることが可能ですが、これでは銀龍を浮遊させることはできても素早く上昇することができません』

「そんなこと知ってますワ。せやから無音飛行ができるんや。いまさら言うな、アホ!」
 だんだん子供の喧嘩みたいになってきた。

『重力が無くなるということは、わずかな反動で推力を得ることになります。アークジェットのイオンエンジンでじゅうぶん飛び立つことができます』

「あほか。そんなチンタラやっとってみぃ。成層圏抜ける前に腹が減って、ヘソと背中がくっ付いてミイラになるデ、ホンマ」

『ミイラ? ……………腐敗せずに原形を保っている死体のこと』

「そんな説明いらんワ、アホ! 宇宙に出るにはロケットエンジンで、『ドバッァー』っと勢いよく飛び出さなアカンねん! こんなん常識やろ」

 社長の言い分には目もくれず、シロタマはスキンヘッドのどこから額で、どこから頭かの境目を明確にしようてのか、ぺたんとそこに張り付き、そして喚いた。

「それが原始人の考え方だって言うんだよ、ハーゲ。常識に縛られてちっとも進歩してない。W3Cはおしゃる(お猿)さんたちとは違うよ」

 仰け反るスキンヘッドの真上へと移動して、よせばいいのにさらに挑発した。
「ハーゲザルぅ」
「ハゲてなんか無いで!!」
 ウソコケ。どこをどう見て言ってんだ。それとも家に鏡が無いのか?

 社長は飛び上がって捕まえようとするが、ヤツは素早くすり抜け、手の届かない天井へ逃げた。

「ほ~ら。すぐ怒る。原始人でしゅ~。おしゃる(お猿)しゃんでしゅ~」

 豪華な照明器具の周りをぐるぐる回りながら、
「キッキ、キッキ、おしゃるのおケツは真っ赤か~~」

「ぐぬぁぁ~!」
 赤いのはケツではなく頭だが、そんな説明をする必要は無いだろう。それどころか社長はそこら辺にあった、ありとあらゆる物を天井へ投げつけ始めた。
 ここから先は支離滅裂さ。事態を収拾するために玲子が社長をなだめすかし退出を促し、その隙に俺がシロタマを天井から引き下ろして田吾にパス。田吾は部屋にあった大きな窓を開けると、そこからゴミでも捨てるかのようにして投げた。

 だいぶ経って──。
 
 ぽかんとする主任が気を取り直し俺の耳元で囁く。
「ご心中、お察し申し上げます………」
 何も言い返せなくて、俺はみんなの前で肩をすくめた。そうさ、タマ野郎が絡んでくると、だいたいはこんな感じになるのだ。

 ということで、打ち合わせは子供の喧嘩として終焉を向かえ、銀龍の改造のために準備された社長の意見は一つも通らず、全部シロタマに押し切られたのである。当然俺たちに臨時のボーナスが支給されることは無かった。



●ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。
ネット小説ランキング>SF>星屑の囁きみたいに些細な出来事
  

(ボタンを押すとネット小説ランキングのページに繋がりますが、その時点で1ポイント加算されます。)