【星屑の囁きみたいに些細な出来事】 作:雲黒斎草菜(利用規約


この物語はフィクションです。実在のよく似たタイトルの作品・土地・人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。

『星屑の囁きみたいに些細な出来事』【第一章:旅の途中】 作:雲黒斎草菜
2016年 11月26日(土)

 プロローグ


 ここは地球が存在する天の川銀河の真反対側に位置する、ハウネルカウザー星系の西端、ルシネットという太陽の第五惑星。アルトオーネという星での話しです。どこからどうみても地球とそっくりですが、あくまでもアルトオーネという惑星だと信じてください。書いている本人でさえも時々解らなくなっています。
ちなみにこの物語では他の恒星系であってしても便宜上『太陽』と呼びますので混乱の無きようお願いします。



           ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「なんだぁこれー?」
 上空から見た時はピラミッド型をしていたが、防護スーツのマスク越しに眺めるとそれは完璧に壁としか見えず、巨大な水色の隔壁が漆黒の宇宙(そら)を突き刺す勢いでそびえ立っているようだった。 

「おおきいぃぃねぇー」
 のんびりと悠長な声を漏らしたのは玲子だ。ほとんど首を直角に曲げており、
「あいたたたぁ。ダメ、立ってらんない」
 バランスを崩して降り積もった細かな砂の上に尻餅をついた。
 すでに何人もの人類がこの衛星の上を歩いいるわけだが、ここで尻をつけるという禁忌を破ったオンナはこいつが最初だろう。人類史上初めての尻跡というわけだ。

 お~お。でっかいケツ跡だぜ。
 すがめていた玲子の尻から、もう一度水色の建造物へと目を転じる。壁はガラス質の透明な物質で覆われており、内側にある水色の物体が、あたかも光を発するかのように輝いている。

 すげぇぇなぁ。
 そっと触れてみて感動すら覚えた。物体はとても硬質で、かつとんでもなく滑らかな表面をしていた。

「何だろうな、これ?」
 自然とひとりゴチが漏れる。
「宝石みたい……」
 尻に張り付いたパウダー状の砂をパタパタと払い落としながら玲子が俺の脇に立って見上げた。

 この建造物こそ衛星の裏側で発見されたモノに間違いないのだが、思っていた以上に壮大だった。たとえその前で誰かが尻餅を付こうが、誰かに触れられようが、何の揺らぎもしない、難攻不落の城郭のような威容を誇っていた。

「どや裕輔。こんな珍しい史跡巡りができる社員旅行は我が社だけやで」
 自慢げに言う社長だったが、俺は不満タラタラと言い返す。
「史跡じゃねだろ。謎だって言ってたじゃん。それより見ろよ、この殺風景な景色。俺はもっと普通の観光地がよかったんだ。ついでに城もタワーも興味無いし……」

「ほら。裕輔。しゃんとして」

 玲子に言われて、俺は水色物体を片腕で突いて体重を掛けた。余った足をくの字に曲げてポージングだ。だって、あいつが記念写真を撮ろうとしてっからな。ポーズをとるのは当たり前だろ。

 史上初の大発見、あんど謎の物体をそんな軽々しく扱ってもいいのか、なんて言われたって知らん。俺にとっては、これは社員旅行なのだ。謎の物体の前であろうと、意地でも記念撮影をしてやるんだ。なんなら宇宙人キャラの顔出し看板でもないかな。あったら、ぜったい頭を出してやるぜ。

「そんなモン、おまっかいな」
 社長は苦々しく笑って、再び空を見上げた。

 俺のほうは周囲を見渡し、
「しかしさぁ。マジで土産モン屋も無いな。ちゅうか、人っ子ひとりいねぇし。美味いモノも食いたかったのに、これじゃぁ、なんにもできねぇじゃん」
 マスクの超硬化ガラスの外側を指の先で突っつき、もう一度文句を垂れてやる。
「見ろよ。こんなのを被っていたらダンゴの一つも食えないぜ」
 何度も繰り返すのは、昼食を食べ逃しひどく腹が減っていたからだ。

「あなたもしつこいわね。もういい加減諦めなさいよ。ほんと程度低いんだから。こうして記念撮影に付き合ってるあたしの気持ちも察しなさいよ。だいたいここは衛星の裏側なのよ。こんなとこにお店が並んでたらそっちのほうが驚きよ! そんなことよりこの建造物を見てドキドキしないの?」

 通信機を通して喚いてきた玲子の甲高い声が、鼓膜をビンビン震わせてくるが、今の荒(すさ)んだ心境では、とてもお前の言う感慨めいた会話をする気は起きない。

「ほんまや、こんな珍しいモノを目の前にして、飯なんか喰ってる場合とちゃいまっせ」
 マスクの中で浮かべる社長の呆れ顔が、内部の照明に照らせれて、外からでもはっきりと覗けた。

「こんなの眺めたって、何の足しにもならねぇって……。はぁー。うぜぇぇー。早く帰りてぇ……」

 ここまで来ると怒りは枯れ果てていた。諦めの境地さ。でも文句だけはいくらでも浮き上がって来る。

「この物体に何の意味があるんだよ、ったく。俺の旅行を返してくれ」

 マイクを通り宇宙空間に電波となって拡散して行く無意味な情報。宇宙に無駄なモノがあるとしたら、今まさに、俺の防護スーツから放出されているこの電磁波だろうな。
 そんなことを考えたことも無かったのに、ここに来て不可思議な物体を見た途端に湧き上がったのだ。なんだかこれからとんでもなく長い旅が始まる気がして、俺は心の底から声を絞り出す。

「かえりてぇぇ──っ」

 ついでに想起する。
「あー腹減った。こりゃあ、何かよくないことがあるぜ。玲子」
「意味わかんないんだけど?」
 キョトンとする彼女に、
「長時間腹をすかしてるとな、いつも俺の周りで何かが起きるんだ」
 と応えた俺の予感は──、

 やはり的中した。